レオピン

バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)のレオピンのレビュー・感想・評価

3.7
絶頂期は92年だ 気づけよ!

自殺の映画かな

かつてスーパーヒーロー映画で一世風靡した役者。
分かっていない世間への恨みつらみがのべつ幕なしに続く。それが席巻しているマーベル映画だったり、クルーニーのケツアゴへの嫉妬だったりして、老体キートンの虚実皮膜ぶりがおかしい。

かつて俺もそんな作品に出たことで人気者になった。だが今や見る影もない。すっかり忘れ去られた、とどんどん自分を追い込み、幻聴、幻視。既にイマジナリーフレンドが絶えず現れている。家族も仕事仲間も全然俺を理解していない。裏切ったり裏切られたり。もう疲れた。

この男に必要なのはカウンセリングのはずなのだが、こういう人間は決まって賭けに出る。全財産投げ打っての文字通り最後の一勝負。憧れのカーヴァー原作を自ら舞台化してのぞむが。

批評家が力を持っているのは変わらないが今や同等或いはそれ以上の力をSNSが持っている。ただ瞬間風速が吹けばいい。そんなタップアンドスワイプの世界と自分が生きている世界に線を引けたのだろうか。

舞台でだけ本当の自分でいられるんだとマイクは嘯くが、彼は「真実挑戦ゲーム」で常に真実をとる。他人の感情を題材に舞台で調理する。彼のような真実コレクターとしてならどうにか生きていけるのか。やはり今はホンモノ志向の人はどこでも生きにくい。 

過去の栄光、プライド。若くして成功を収めた人ほど囚われる。
子供からアレ誰と指さされ、親からバードマンの人よと確かめられる。それで十分ではないか。人気はあの世にまで持っていけない。ましてそのものさし自体が変わってしまった。

有名人タレントの死にはいつも考えさせられるがいくら考えても彼らの死には届かない。永遠に全盛期のスーツアクターとしての姿しか思い出せない。

サマンサの持っていたトイレットペーパーのように人の世は短い。過去に起きたことは全てがむなしい。

とかく名声はやっかいだ。芸能の世界だけではない。アップデートという言葉は正直好きじゃないが、いん石のように堕ちるしかないのであれば早めに手放した方がいい。
手放した時の姿はこっけいだがかっこよくもある。パンツ一丁で必死になって走り回る。その姿こそが記憶に残り続ける。

今のMCU俳優の中にもこういう人はいるのだろうか。笑顔でサインしながらも内心苦々しく思っている。いてくれと思ってしまうのは観客のわがままか。

最後どうなんだろう。映画は空中浮遊から始まった。ちょうどあの教祖のように果てない誇大妄想が現実を食い破り、誰も止められなくなった末のバッドエンドととったが。

(2019.8)
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