「真実か?挑戦か?」
きっと、イニャっち(アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督)は常に自分に問い掛けているのでしょう。そして、いつも挑戦を選んでいる…のだと僕は思います。
『21g』では物語の解体。
『ビューティフル』では接写による一体化。
『レヴェナント』では自然光による撮影。
そして、本作では、物語全てをワンショットの長回しのように繋げたこと。
確かにスゴイ挑戦だと思います。
本作で言えば、臨場感…という意味では功を奏していました。でもですね。正直なところ、イニャっちの映画って疲れるのですよね。本作の裏で流れているドラムも然り。強制的に前のめりにされている感覚なので、観ているうちに膝がプルプルしてくるのですよ。
これが自分と相性の良い物語ならば。
自発的に前のめりになるから良いのです。例えば『ビューティフル』や『レヴェナント』は“父親の物語”でしたからね。僕も立ち位置的に感情移入しやすかったし、強制的な緊張感は辛かったですが嫌な印象はありませんでした。
ですが、本作の場合。
繋げた映像で描いたのは繋がらない人たちの物語でして。ショウビジネスに詳しい方、携わっている方ならば思う部分があるのかもしれませんが、栄光に縋るかつてのスター(主人公)に庶民代表のような僕が共感できるのかというと…んー。スミマセン。頭で理解できても感情は付いてこないのです。
また、主人公の周辺の人たちも。
自分にとっては表面的な存在にしか見えず。エドワード・ノートン演じる「舞台でこそ自分を曝け出せる」とか言っている役者バカは面白い存在でしたが、狂言回しに過ぎないのですよね。
というわけで。
イニャっちの高みを目指す姿勢と、常に緊張感を強いる作風を熟知の上、本作の主人公に感情移入することが出来れば…楽しめる作品だと思います。また、『バットマン』のパロディという側面もあるので、そちら方面の知識もあった方が良いでしょう。
ただ、こんなにも間口が狭いのに。
第87回アカデミー賞の作品賞を受賞しているのですよね…。