けーはち

バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)のけーはちのレビュー・感想・評価

3.6
かつてアメコミ映画「バードマン」の主役として人気だった俳優は今では鳴かず飛ばず。ブロードウェイの舞台で復活を図るが──全方位への皮相な視線を交えたイニャリトゥ監督の難解なブラック・コメディ。主なキャストにアメコミ映画出演者を用意し、実在俳優の名を挙げながらアメコミ映画ばかりの流行る映画界を皮肉り、かと思えば、観客は金持ちの暇人で誰も真面目に観劇しておらず有名な批評家の匙加減ひとつでくっきり明暗が決まる閉鎖的な演劇界を皮肉る。声ばかり大きくて演技下手な大根役者も、演技は上手くても人間性が壊滅的な役者バカも、家族を愛せない父親も、それにかまけて麻薬でラリる娘も、同様に皮肉る。主人公はしばしば超能力を発揮するが、すべて妄想である。「バードマン」という別人格の影に過去の栄光から来る全能感を引きずっているだけ。そんな皮肉で虚実入り混じる劇中で、ついに観客まで皮肉るような「リアルな演技が観たいなら、実際に舞台の上で人が◯◯シーンを見せれば良いんだろう?」と言わんばかりの衝撃シーンからの、割とハッピーエンド風の流れはこれまた主人公かラリパッパな娘の幻覚なんだろうなあ。総体として皮肉すぎて何が言いたいか分からない、視聴感の煮え切らない作品であるが、ワンカット風編集とほぼジャズドラムだけのBGMがクールで引き込まれる。