せんきち

きみはいい子のせんきちのレビュー・感想・評価

きみはいい子(2014年製作の映画)
4.2
素晴らしい。今年の邦画暫定ベスト!観るつもりは全くなかったがあの『そこのみにて光輝く』呉美穂監督作品と聞き。観ることに。予告も観なかったのが幸いした。予告は非常に重要なシーンを出しまくっているので出来れば、予備知識ゼロで観て欲しい。


原作は短篇集で「べっぴんさん」「サンタの来ない家」「こんにちは、さようなら」の三本を一つにまとめている。

子供を虐待している母尾野真千子と子沢山の池脇千鶴の話、頼りない新任小学校教師高良健吾と義父からネグレクトされている神田さんとの話、認知症のおばあちゃん喜多道枝と自閉症の子供加部亜門の話。この三つの話がクライマックスにある一瞬交錯する。それはまるで小樽を舞台にした「マグノリア」のようだ。


この三つのエピソードはどれも秀逸なんですが、特に好きなのが小学校教師高良健吾とネグレクト児童神田さんの話。

学校終業後、雨の校庭の片隅で鉄棒をずーっと握っている神田さん。高良健吾は近寄り「学校そんなに好きなの?雨だし家に帰ったら?」と聞くと「義父さんが5時まで帰ってくるなって言うの」と神田さん。ネグレクトを疑い会話を進めていく高良健吾。次第に神田さんは心を開いていくのだが、そこまでの会話が素晴らしい。


「先生ね。揚げパンが好きなんだ。先生になって一番良かったと思うのは給食で揚げパンが食べられることなんだよね」「僕も揚げパンが好き」「揚げパンの次は何が好き?」「ハンバーグ」「先生もハンバーグが好き」


映画を観終わってから、この何気ないシーンを反芻してしまう。理由は映画を観れば分かるのだが。高良健吾は不器用だし気が効かないし頼りないが優しい人なのだと分かる名シーン。



クライマックスは導入から涙腺決壊。神田さんの「宿題は絶対やってきます!」と池脇千鶴が尾野真千子に「◯◯◯◯」あたりでマジ泣き。劇場でも鼻をすする音が。丁寧に積み重ねられた描写がここで爆発する。


小樽の街を走る高良健吾にうつる幻想的な光景とその後に対面するハードな現実。素晴らしいとしか言いようがない。


本作で徹底して描写されないのが”父親”だ。追い詰められ、虐待する母に父親の影がない(シングルマザーではない)。核家族化&父親の育児不参加が虐待の一因であることを本作は明示している。

勿論、父親の育児不参加は日本の父親が無責任という訳ではなくて労働環境が劣悪なため帰宅時間が遅いという事が一番の問題なのだろうけど。


役者は尾野真千子、池脇千鶴、高良健吾と皆素晴らしかったんですが、同僚教師の高橋和也!パンフ観るまで高橋和也だと思わなかった。だって前作「そこのみにて光輝く」でこんな事面と向かって言われたら殺すしかない台詞を言った高橋和也ですよ!全然違うじゃない。凄え役者だなおい。後、喜多道枝のゆるい認知症おばあちゃんも素敵。本当にあんな感じの認知症の人いるよ。


上映館は少ないが皆観て欲しい。予告編が結構なネタバレかましてるのスルー推奨。
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