現実と舞台が交錯しながら、同時進行で描かれていく出だしに、まず心をぐっと持っていかれた。
主人公の新人俳優オ・ヨンは、演技となると役に入りこんでしまい、台本にない台詞を語り、アドリブで行動してしまう。
当然、製作陣や共演者は彼についていけない。それでも、オ・ヨンは自分の演技をやめることができない。
どんどんと仕事の場を失っていくオ・ヨン。そんなある意味、天才肌の役者がどうやって芸能界をのし上がっていくのか。
という王道的な成功物語のように見えて、映画は途中から色を変えていく。
売れっ子になればなるほど、オ・ヨンの演技は狂気の影を薄くしていく。
「好きなことしかやりたくない」と言い切ったはずが、意に沿わない役もこなし、偉い人の言うことにも従うようになっていく。
そうやって変わった分だけ、彼の演技はつまらなく陳腐になる。
彼自身もそれが痛いほどわかっていて、でも、どうすることもできずに鬱屈していく。
この屈折した感じがひりひりとして、とても響いてきた。
演技に迷うオ・ヨンが、結局は、売れていなかった頃に出た小劇場の芝居に救いを求める展開も好み。
そのうえで、まるで冒頭を繰り返すかのように、再び現実と舞台が交錯するクライマックスも熱かった。
ラストはちょっと賛否が出そうな気がするし、違う描き方もできたんじゃないかとも思う。
ただ「この映画自体がすでに虚構なんだよ」と言っているような妙な味はあった。