みかんぼうや

沈黙ーサイレンスーのみかんぼうやのレビュー・感想・評価

沈黙ーサイレンスー(2015年製作の映画)
3.7
世界でも大変高い評価を得ている遠藤周作の小説を、あのマーティン・スコセッシが映画化。江戸初期の隠れキリシタン弾圧を描いた作品。ここでは「グッド・フェローズ」のようなポップでアップテンポな作風は皆無。原作に惚れ込むスコセッシが魂を込め、160分の重厚な歴史ドラマとして仕上がっている。

私たち日本人は、日本で行われたキリスト教の弾圧について義務教育で習うため、弾圧や踏み絵という事実があったことを知らない人はほぼいないでしょうし、それを一つの歴史の流れとして自然と頭に入れているわけですが、この作品を観て、日本で起きていたこの事実を初めて知った海外の人々、特にキリスト教の人たちはどう思うのだろう?物凄い衝撃なのではないでしょうか?

私は無宗教で良くも悪くも神や仏への信仰や思い入れが希薄なので、本作に限らず、宗教観を題材にした洋画を観ても、宗教を持っている方々に比べると、そういった作品から感じるものの大きさははるかに小さく、時にその言動をストレートに理解できないことがあるのも事実です。

が、自らが自分の意思で宗教を離れるのではなく、自分の信じるものをこのような形で強制的に捻じ曲げられることの酷さは、教徒によっては肉体的苦痛を超えた苦しみであったであろうことは想像に難くありません。

作品自体は、前半はテンポもゆったりめで、他のスコセッシ作品に比べると若干冗長に感じるところもありましたが、後半の主人公セバスチャンを棄教させようとする展開や彼自身の牧師としての葛藤は非常に見応えがあり、またキリスト教と仏教の価値観や思想の対比なども興味深かったです。映画としてのクオリティもさすがスコセッシという抜群の高さでした(やりとりの主要言語が英語なのは違和感がありましたが、これ致し方ないですね)。細部まで拘り抜き、外国製作の映画ながら、現代の日本の時代劇より時代劇らしさもあったように思います。

スコセッシは大好きな監督の一人で少なくとも10本は観ていますが、「タクシードライバー」や「キング・オブ・コメディ」などの狂人系、「グッドフェローズ」などのアップテンポな盛者必衰物語、本作のような重厚系、など時代とともに本当に様々なタイプの名作を輩出していていることが本当に凄いです。ただ、ここ数年の新作である「アイリッシュマン」、「キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン」は未視聴で、これらの作品が彼のどのような色を見せてくる作品なのか、とても楽しみにしています。
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