TOSHI

沈黙ーサイレンスーのTOSHIのレビュー・感想・評価

沈黙ーサイレンスー(2015年製作の映画)
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黒澤明監督や今村昌平監督から影響を受けているマーティン・スコセッシ監督だけに、いつか日本をテーマにした映画を撮るのではないかという予感があったが、まさか遠藤周作の沈黙の映画化とは思わなかった。
何せ沈黙の映画化で約160分なので、観る方にとってもかなり修業に近い体験になるのではないかと思ったが、さすがスコセッシ監督で画面の構成がしっかりとして映像に力があり、オープニングからグイグイ引き込まれる。信仰を持った人達の強さと弱さ、葛藤がこれでもかとふんだんに盛り込まれており、迫害、それ以上に祈りに答えを与える事がない神の“沈黙”と闘う姿に胸を打たれる。
磔で荒波に打たせたり、藁に包まれ燃やされたり、海に投げ込まれたり、逆さ吊りにされたりと、迫害の描写が凄まじいが、一方で踏み絵が「少し踏めばそれで良い。形式的な物だ」という調子で行なわれる意外な描写もあった」。
主役の神父役、アンドリュー・ガーフィールドや、先に日本で布教していた宣教師役のリーアム・ニーソンも良いが、日本の俳優陣が素晴らしい。キチジロー役の窪塚洋介は、罪深い存在をここまでやるかという位に演じ切っている。こういった映画の場合、迫害する側は一方的な悪役として描かれる事が多いが、井上筑後守役のイッセー尾形や、通辞役の浅野忠信が、立場上そうせざるを得ない人間味のある人物を表現していて見事だ(しかし、スコセッシ監督が沈黙を台湾ロケで撮り、小松菜奈が出演しているというのは時空の歪みを感じる)。
改宗させられていたニーソンの現在の姿や、ガーフィールドが、信仰を貫くか人を救うかの究極の選択を迫られる様が衝撃だ。ガーフィールドも改宗させられるが、結末は驚くべきものになっている。
とても「ウルフ・オブ・ウォールストリート」を撮ったのと同じ監督の作品とは思えないが、スコセッシ監督の宗教観を表す作品という意味で、「最後の誘惑」や「クンドゥン」の系譜に位置付けられる作品だろう。
スマホでめまぐるしくエンタメの良い所取りをするのが当たり前の時代に、遠藤周作の沈黙の世界を160分かけて見せる映画という物は、現代では異質のエンターテインメントになっていると思う。
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