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フォードvsフェラーリのTOSHIのレビュー・感想・評価

フォードvsフェラーリ(2019年製作の映画)
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こういったカーレースの映画に飛び付く性質ではないのだが、他の映画を観ようとして、スマホによるアプリへのアクセスの調子が悪く、会員である事を証明できず、アプリでしか会員証明ができない不親切さに憤慨して出てきてしまい、急遽、予定になかった本作を観る事になった。嫌な気分での観賞となったが、映画が始まると、グイグイと引き込まれた。

ストーリーはシンプルだ。1960年代、ル・マン耐久レースでの優勝経験があるが、心臓の病で引退してカー・デザイナーとなっていたシェルビー(マット・デイモン)に、アメリカ最大の自動車メーカー・フォード社から、無謀とも言える提案がなされる。ル・マンを6連覇しているイタリアのフェラーリ社に勝てるレース・カーを開発して欲しいという物だ。フェラーリの買収に失敗した、フォード会長のヘンリー・フォード2世(トレイシー・リッツ)が、カーレースでフェラーリを打倒しようとしたのだ。短い準備期間で、シェルビーは真っ先に、凄腕のイギリス人ドライバー・マイルズ(クリスチャン・ベイル)に白羽の矢を立てる。国税局に自動車修理工場を差し押さえられ、生活に困窮していたマイルズだが、妻・モリー(カトリーナ・バルフ)と息子・ピーター(ノア・ジュブ)に背中を押され、参戦を決意する…。

こういった大昔の実話を映画化しようとする作り手の発想には、「お前は既に負けている」と言いたくなるが、アナログで作られた映像の質感・構図が歴然と、優れた映画である事を表している。シェルビーとマイルズの熱い友情、マイルズと家族のドラマも良いが、何よりも、3回あるレース・シーンである。ドライバー目線による臨場感、ギア・チェンジで加速し競う車を抜き去る興奮、そしてエンジンの限界である7000回転を超え、全てが失われていくかのような世界で見えて来る風景。
観賞前の嫌な気分も、大昔の実話というコンセプトへの不満もぶっ飛んだ。これ程の没入感を覚えたのは久しぶりで、約2時間半があっという間だった。コンセプトやストーリー以上に、力のある映像の積み重ねそのものが、映画なのだと再認識させられた。
映画館で観なければ、この映像体験は十分に味わえなかっただろう。本作を劇場で観たのは、偶然ではなく必然だったのだと確信する。2020年の幕開けにして、2020年代を代表する事になるであろう傑作だ。
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