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白い帽子の女のInagaquilalaのレビュー・感想・評価

白い帽子の女(2015年製作の映画)
4.1
照りつける太陽の下、レトロなオープンカーに乗り、海辺の道を走る男と女。流れる音楽はジェーン・バーキンの「JANE B」。これだけで自分は冒頭からヤラれ、気持ちは避暑地のアンニュイのなかに連れて行かれた。

セルジュ・ゲーンズブール関係の曲はこの後もいくつか登場し(本人が歌う「BLACK TROMBONE」も)、まるでフランス映画のような空気が全編に漂う。

アンジェリーナ・ジョーリーの第3作目の監督作品(今回からクレジットはアンジェリーナ・ジョリー・ピットとなっている)。夫のブラッド・ピットと10年ぶりの競演ということでも話題なっている映画だ。

ニューヨークから南フランスにやってきた夫婦、夫(ブラッド・ピット)は作家なのだが、スランプに陥っており、いっこうに原稿ははかどらず、港のカフェに入り浸っている。妻(もちろんアンジェリーナ・ジョリー)はホテルから外出することなく、ベランダから見える美しい入江を眺めながら物思いに耽っている。

不穏な雰囲気が漂うこの夫婦、どうやら過去にあったある事(妻のフラッシュバックとして画面では現れる)をきっかけに冷たい関係が続いているようだ。そんな彼らの隣の部屋に新婚のカップルが宿泊する。妻が覗き穴を見つけ、隣の部屋の情事を観察し始める。その行為に気がついた夫も一緒に覗きを始め、ふたりの間にはにわかに「共犯関係」が生まれ、夫婦の仲は好転するように思われたが……。

このように書くと安手の風俗小説のようなストーリーだが、これが美しい映像と絶妙のカメラアングルでかなり内省的に描かれる。アンジェリーナ・ジョリーはいまや「女クリント・イーストウッド」とも称されているが、監督としての手腕もなかなか見事なものがあると感じた。

けっして先を急ぐことなく、じわじわと登場人物たちの心の動きを表現していくその物語の運びは、退屈だという人もたぶんいるだろうが、自分としては嫌いではない。

ふんだんに挟まれる美しい入江の映像、サービスカットのように登場するアンジーのシャワー&入浴シーン(もちろん惜しげも無く美しい胸を披露している)、夫婦すれ違いのやりとりのなかにそれらを効果的に登場させ、香気あふれる作品に仕上げている。

アンジー自身は、監督の弁として「何かを失い、すれ違ってしまった夫婦が、粘り強い愛によって自分たちを取り戻し、お互いを受け入れるようになるまでを描く物語です」と語っている。

舞台となる素敵なホテルは、どうやら南フランスではなく、ふたりが実際に新婚旅行で訪れたマルタ島らしいが、この美しい入江を見下ろすホテルにはぜひ行ってみたい。

ちなみに原題は「By the Sea」。邦題の「白い帽子の女」はローレンス・カスダンのラブミステリー「白いドレスの女」からの連想だろうが、作中でアンジーは白い帽子だけでなく、黒い帽子もかなり印象深く着用している。「海辺にて」とか「入江にて」でもよかったのでは。あいもかわらず観客をミスリードに導く、安易で作品に対して無理解な邦題には、猛省を促したい。
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