TOSHI

雨の日は会えない、晴れた日は君を想うのTOSHIのレビュー・感想・評価

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詩的な邦題からイメージしていたのとは、かなり異なる作品だった。
映画ファンの信頼も厚く、カメラに選ばれた俳優とも言えるジェイク・ギレンホールだが、本作でも特異な内面性の男を演じている。ギレンホール演じるエリート金融マンのディヴィスは、自動車事故で突然妻を失う。しかし悲しいという感情が起こらず、物事への感情そのものを失っているのが分かる。ディヴィスは妻の父であり、仕事上の上司でもあるフィル(クリス・クーパー)から言われた「壊れた物は一旦全て分解してみるしかない」という言葉に取り憑かれ、身の回りの物を壊して分解するようになる(原題は、Demolition (破壊)である)。
ディヴィスに取っては、妻もパソコンも冷蔵庫も中身が分からないという意味では同じだったというメタファーだろう。その事も凄いが、妻が亡くなった病院の自販機が不調で、メーカーへの苦情の手紙に、妻の死を巡るプライベートないきさつを書き綴るに至っては、狂っているとさえ感じた。
ディヴィスはメーカーのクレーム対応係であるカレン(ナオミ・ワッツ)から深夜に電話を受けたのをきっかけに、カレンとその息子で問題児のクリス(ジュダ・ルイス)と交流するようになる。ディヴィスとクリスはお互いに心に空洞を抱える同士で、不思議な連帯感が生まれる(ここまで来て、西川美和監督の「永い言い訳」にプロットが似ている事に気付いた)。クリスからiPodに入れてもらった曲に合わせて、ディヴィスが街中で踊りまくるシーンが圧倒的だ。
破壊欲求が頂点に達し、自宅をブルドーザーで解体するに至ったディヴィスは、妻のドレッサーから隠された秘密の証拠を見つける。そして墓参りに行った帰り車に乗ろうとして、妻の自分への想いが書かれたメモを見つける(邦題はこれに由来)。ディヴィスは妻への感情を再確認し、自分の心を取り戻す。エピローグと、ラストシーンが良かった。
ジャン=マルク・ヴァレ監督は「ダラス・バイヤーズクラブ」等、再生の物語を得意とするが、本作も一人の男の凄まじい破壊とその後の再生の物語であった。とても新鮮で、リアルな作品だ。

東京に住んでいて良いと思うのは、東京で観られない公開作は殆どなく、公開順も先だという事だ。本作は先ず東京・神奈川での公開で、順次全国で公開予定との事。
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