Solaris8

ローズの秘密の頁(ページ)のSolaris8のレビュー・感想・評価

4.2
6/16 富山のほとり座と云うシネマ・カフェでローズの秘密の頁を観た。

映画は現代のアイルランドの精神病院で赤ん坊殺しの罪で収容されている老女を転院させるかどうかの再診の判断で精神科医が派遣され、主人公の老女が第二次世界大戦頃の若かった時代を回想する形式で語られる。

以前、アイルランドのマグダレン精神病院事件の事を知ったのだが、カトリックのアイルランドでは当時、婚外子を産んだ女性は堕落した女性と見なされ、精神病院に隔離される事が少なくなかったと云う。当時、女性の保護・収容を大義名分としてカトリック教会の名の下で運営された保護施設で母子に対する虐待が在った。第二次世界大戦当時のカトリックの女性の貞操観念というのは酷いもので男性に色目を使う女性も告発されて同等の取り扱いを受けたと云う。

アイルランドはカトリックの国だが、北アイルランドの住民の裕福な支配層にはプロテスタントも多く、主人公はプロテスタントだった。美貌に恵まれた若き日の主人公は、カトリックの神父と酒屋を営むプロテスタント系アイルランド人の二人の男性に出会うが、結婚が許されない神父は主人公のストーカーの様に付きまとい、英国空軍に志願し勲章を授かった酒屋の男性と結婚する事になる。その夫は英国空軍に志願した事でカトリック系住民から恨みを買い、殺される。

この映画はアイルランドの暗い歴史と当時の宗教的な背景や英国との外交関係を組み合わせて作られた映画で、在り得ないような絵空事のサスペンスミステリーのドラマでは無い。

以前、北海道の稚内丘陵を訪ねた事があるが、青い海の近くに緩やかな緑の草原の丘陵地帯が広がっていて、晴れた日の稚内丘陵は美しかった。稚内丘陵はアイルランドの丘陵地帯によく似ていると云うが、雨が降って海が荒れて暗くなってくると寒々として寂しさを感じる場所でも在り、アイルランド民謡のロンドンデリーの歌を想い出した。

第二次世界大戦当時の複雑なアイルランドの社会背景の中で、プロテスタントの牧師の下で結婚した二人が、アイルランド丘陵や穏やかなアイルランドの海辺を幸せそうに過ごす一瞬が美しく、アイルランドの寒々とした曇り空で海が荒れる中、主人公がカトリックの神父一派に追われ、打ち上げられた海岸で子供を産んでしまう二つの場面が美しいアイルランドの国土と悲しいアイルランドの歴史の対比の様で印象に残った。

映画の最後の方で、主人公の子供が産まれたのはラッパ水仙が咲いて、リンゴの花が咲いた頃だったと云う会話があるのだが、今年は地元の富山の実家の近くで4月に水仙の花を観て、GW頃にリンゴが特産の魚津でリンゴの花を観た。遠くに思えるアイルランドだが、富山の自然もアイルランドの自然もそんなに変わらないと思うと親近感が湧いて来る。
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