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ローズの秘密の頁(ページ)のardantのレビュー・感想・評価

4.9
この物語は深い哀しみに満ちている。

良質な英国映画にみられる淀んだ空気が満ちた暗い映像の中で、第二次世界大戦時の忌まわしい事件が、壊されることになった精神病院の中で、老婆の回想の形で描かれる。聖書の余白に書き続けてきた日記、それは、病院で受ける電気ショックなどの治療と称する虐待により、失いそうな思いを書きとどめたものだった。

彼女に恋した若い神父の嫉妬から、「色情狂」として、精神病院に閉じ込められ、その時、妊娠していた子供を逃亡時に殺したかどで、何十年もの間、世の中から隔離されていた老婆。
さすがに、ヴァネッサ・レッドグレイヴだ、その重みを演じきる。

もちろん、本作品は英国映画ではなく、アイルランド映画だ。
だから、そこには英国とアイルランドという国自体の確執、というよりは、英国の恥部であるアイルランドへの植民地支配が及ぼす暗い影、アイルランドにとっては屈辱の英国との桎梏が、深い影を差している。

そして、この物語のラストは出来すぎではない。このラスト、そのことを願っていたのは、ずっと罪に苛まれた神父の思いが結実したものなのだ。

この作品で、若い時代の主人公を演じたルーニー・マーラを観ながら、デビッド・リーンが『ライアンの娘』(1970,英)で描いた、英国将校と恋に落ちたことにより、丸坊主にされたアイルランド人妻、サラ・マイルズの哀しい姿が、思い出されてしかたがなかった。
それは、敵対するものからの暴力よりも、味方の側からの仕打ちのほうがより重く、耐え難い痛みを伴うからだ。

本作品の日本公開は、2018年02月03日だ。また、本年のベストワン候補に巡り合った。
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