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ドローン・オブ・ウォーのfujisanのレビュー・感想・評価

ドローン・オブ・ウォー(2014年製作の映画)
3.3
画面越しに戦場が迫る――ドローンが拓く新たな戦争の形。

2014年、アメリカの戦争ドラマ映画。監督は「ガタカ」、「ロード・オブ・ウォー」、「TIME/タイム」などの低予算で良い映画作るアンドリュー・ニコル。



本作は米軍によるドローン攻撃に対する、鋭い批判映画となっていました。

主人公のトミー(イーサン・ホーク)は戦闘機F16の元パイロットで、今は無人攻撃機の操縦士。ラスベガスのンテナハウス基地から1万キロ以上離れたアフガニスタンで作戦を遂行しています。

朝はサラリーマンのように車でクーラーの効いたコンテナ基地へ通勤、まるでゲームをしているかのように1万キロ先の上空で飛ぶ無人攻撃機を操って人を殺し、夕方はまた帰宅して、友人たちとバーベキューを楽しむ。そんな毎日。

命令は軍からだけではなくCIAからのものもあり、911テロ以降、実際に現地で本人を確認してから行動する『標的攻撃』から、テロリストの特徴があれば攻撃して良いという『特徴攻撃』に変わったCIAの攻撃指示は非人道的なものでした。

銃を持っているから攻撃して良い、標的と一緒に行動しているから攻撃して良い、首謀者と会話しているから攻撃して良い、そんな事を言いだしたら、誰でも殺して良いことになりますよね。

『捕まえて拷問するよりコストが安い』
『標的であると、”ほぼ”断定できる』
『対テロ戦争には、事実上、国境は存在しない』
『個人ではなく、集団を排除するんだ』
『Good Kill(よくやった)』
『バラバラで何人死んだかわからないな』

そんな、非人道的な会話が飛び交う”リモート戦場”で働くトミーの心は、どんどん蝕まれていきます。

無人攻撃機から発射したミサイルが地上に届くまでのタイムラグは10秒。発射時の標的は一人でも10秒の間に子どもや妻が接近し、巻き添えで死亡する。そして、それは”仕方がない”と処理される。そんな誤爆が多発します。

それでもトミーの奥さんは、死と隣り合わせの戦地よりも毎日家に帰ってきてくれる今の方が良いと伝えますが、トミーの心は徐々に限界に近づいていきます。

また、現地戦闘の経験があるトミーは”命の軽さ”に耐えられませんが、怖いのは現地戦闘もないゲームが得意だけの若者が作戦に参加していること。彼らは血を見ていないので作戦遂行に躊躇がありません。

命の軽さに葛藤するトミーはどうなっていくのか。続きは映画にて。



本作は2014年の作品で、無人攻撃機パイロットの精神疾患の問題は、当時話題にもなりました。

そしてあれから10年。今どうなっているかというと、パイロットさえ不要なAIによる無人化が進んでいます。

AIは事前に入力された条件さえ揃えば自動的に行動します。しかも24時間トイレにも行かず寝不足や体調不良によるミスもない。ゲーマーよりもさらに好都合な存在です。

(このあたりは先日再放送されていたNHKのドキュメンタリーや、NETFLIXドキュメンタリーの「アンノウン」が詳しいです)
選「ハイテク対テロ戦争 ロボット兵器」 - BS世界のドキュメンタリー - NHK
https://www.nhk.jp/p/wdoc/ts/88Z7X45XZY/episode/te/WLLW92LM6M/


ウクライナロシア戦争で使われているドローンは航続距離70Kmと言われ、あらかじめ入力された目標に向かって地図情報を元に自動的に飛んでいき、搭載した爆弾で自らを爆発させる遠距離自爆型ドローン。

残念ながらこの映画の内容は”今よりもまだましだった時代”のものになってしまっており、この10年で事態はさらに深刻になっていることに恐怖を感じます。



余談:
終始重苦しい内容の映画ではありましたが、たまにイーサン・ホークが柳沢慎吾に見えることがあって、それが息抜きになりました😓

『悲しいけどこれ戦争なのよね』




2023年 Mark!した映画:312本
うち、4以上を付けたのは34本 → プロフィールに書きました
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