真田ピロシキ

わたしに会うまでの1600キロの真田ピロシキのレビュー・感想・評価

4.4
1600キロも険しい道を孤独に踏破したからって何になるんです?と言われたら別に何もないよ。金は減るだけで増えやしない。それでも何かを行う事には価値がある。仮に挫折したとしても挑戦した前と後では違う。自分探しの旅wなんて揶揄して冷笑するだけの連中には一生分からない。

間違いと後悔だらけの人生を送ってきたシェリルは大チャレンジを前にしても準備は不足していてテントの設置は覚束なく燃料を間違えて火を起こせもしない。大事な靴まで下に落としてしまう始末。若い女1人旅で見舞われる好奇の目や危うさにも遭遇する。だからと言って彼女の自己責任なんて事は言わない。予期せぬアクシデントなんて生きてりゃ幾らだってある。この旅路ですら長い人生に置いては数ページに過ぎない。先はまだまだ続くのだ。過去と現在を同時に叙述する演出が旅を記念イベントとして終わらせない。

全編を貫くのは死のイメージ。特にシェリルが人生を踏み外す原因となった母ボビーの死は鮮烈。この母が暴力的な夫から逃れ子供2人を育てて娘と同じ大学に通い遅蒔きながらようやく自分の人生を歩み始めた矢先に45歳で死んでしまう。そこにもう大して若くはなく2年前に入院して死ぬんじゃないかと思った自分としてはシンパシーを感じるのです。挑戦は出来る時にしなきゃいけない。もっと言えば生きてさえいればどうにかなる。個々人のどうって事なくてもかけがえのない生を描いた本作は沁みる。登場人物や時系列を分かりやすい物語として整理しない複雑さも人生描写として素晴らしいもの。ダニー・ボイルの『127時間』が好きな人なら痛々しさも併せて重なるものを感じ取れる。どちらもフォックスサーチライト。ここの映画好きなの多いな。