映画ネズミ

ゴジラ キング・オブ・モンスターズの映画ネズミのレビュー・感想・評価

4.0
向いている人:①ゴジラシリーズが好きな人
       ②「モンスターバース」シリーズが好きな人

 突然ですが、私、『バトルシップ』という映画が大好きです。なぜかと言うと、「作り手のやりたいことがハッキリしている」からです。

 あの映画でやりたいことって、クライマックスの軍艦同士の決戦なわけじゃないですか。その場面のテンションが異常に高くて、ほかも面白いんだけど、色々足りていないみたいなところに「手作り感」を感じるんです。「『好き』が暴走している」ところがイイ、というか……。

 最近見た中でもっとも「好き」が暴走していた映画が、この「キング・オブ・モンスターズ」でした。これも、大好きな映画です!

 秘密機関モナークの科学者エマ・ラッセルは、娘のマディソンと共に、艦橋テロリストによって誘拐され、怪獣の復活に協力させられる。一方、怪獣の存在を秘匿していたことで世間からの非難を浴びるモナークと芹沢博士は、エマの元夫・マークの協力を得て、エマたちの追跡を開始する。

 前作、2014年版『ゴジラ』は、スピルバーグの『宇宙戦争』、そして平成ガメラシリーズのような、「怪獣が本当に現れたらどうなるか」ということをシミュレーションするような怪獣映画でした。

 それに対し、今回はそういった「シミュレーション要素」はゼロ。最初の30分こそ人間同士のドラマ要素が強いですが、あとはひたすら怪獣バトルです。

 『キングコング 髑髏島の巨神』のラストで、モスラ、ラドン、キングギドラが次回出ます!と言われたときには、「バカじゃないの!?」と思ったのですが、本当に出しています。65年ぶりに、「三大怪獣 地球最大の決戦」を200億円賭けてやっている映画です。

 マイケル・ドハティ監督。もとはブライアン・シンガーのもとで『X-MEN』シリーズなどの脚本を手がけた人です。こんなゴジラファンだったとは!

 ゴジラシリーズの様々な要素がミックスされていますが、なかでも平成ゴジラシリーズが好きな人が一番喜ぶ要素が多いかもしれないですね。光線を多用したバトルシーンは、川北特撮の再現になっていて、激アツでしたね!

 伊福部昭の「ゴジラのテーマ」「モスラのテーマ」がかかるところは、本当にファンなら涙ものです。やっぱり怪獣映画は日本のテイストがないと! あとは、怪獣と通じ合う少女とか、ラドンが飛び去るときに地上に影ができる感じとか、「分かるかっ!」と言いたくなる「小美人」の正体とか、「キングギドラ=宇宙怪獣」と説明するときのザツな感じとか、日本特撮映画のオマージュ満載です。

 そして、悪役キングギドラ。もう最高ですね! 強いし、悪いし、知恵も働く。最高の悪役でしたし、正面対決のシーンは、思わぬ「加勢」が来るところも含めて、大迫力でした。

 もちろん、ハリウッドの技術力でこそ可能になった場面もあります。特に、ラドンと、モナークの戦闘機部隊との空中戦は、さすがハリウッド! という迫力でしたし、キングギドラが逆光で翼を広げるところは大興奮でした。モスラも美しかったですね……。

 正直、本作は怪獣の存在感がありすぎて、人間が全くモブ状態なんですよね。渡辺謙やチャン・ツィイー含め、いい演技をされているんだとは思うんですが、正直、演技力を発揮する隙間がなかったですね。エマことヴェラ・ファーミガの「女サノス」ぶりは見ごたえありましたし、ストレンジャー・シングスの女の子が、またしてもどこかから脱走する役だったのは面白かったです。

 その一方、アメリカの方の怪獣デザイン力が絶望的だという事実に衝撃を受けます。終盤に出てくるモブ怪獣たちに、ダサーッ! と思いました。イイ映画を作るセンスはあるのに、イイ怪獣を作るセンスはないのね……。

 正直、ネタがマニアックすぎて、広く支持を集めるタイプの映画ではないと思いますが、猛烈に「好きが暴走している」、見ていて楽しい映画でした。

 ただ、唯一残念なのは、ゴジラの出自、原爆投下のメタファーという、ゴジラの「負の要素」がまったくなくなってしまったことです。もちろん、それをすることは強烈な「アメリカ批判」になるので、そんなことはできないというのが本音なのでしょうが、怪獣の存在が、もはや人類にとっても「良い事」に安易にされてしまっているのには、微妙な気分がありました。

 とはいえ、それ以外の部分は素晴らしい! 今度はキングコングと戦うそうですが、ぜひ、ゴジラファンも、キングコングファンも納得できるような、死力を尽くした、小細工なしの激闘を見せてほしいですね!
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