映画ネズミ

SHE SAID/シー・セッド その名を暴けの映画ネズミのレビュー・感想・評価

5.0
向いている人:全人類

 #MeTooムーブメントの大きなきっかけとなった「ハーヴェイ・ワインスタイン事件」を暴いた記者2人の姿を追った実録ドラマです。

 記者ジョディは、あるハリウッド女優がハーヴェイ・ワインスタインから性的暴行を受けたとの話を聞いて、取材を開始。同僚の記者ミーガンと共にその裏付けを取り、報道しようとしますが、そこには様々な困難があり……というお話。

 関係者の名前が実名で出てくる調査報道映画。過去の名作で言えば『大統領の陰謀』や『スポットライト 世紀のスクープ』と似たアプローチだとは思います。

 そこで描かれるのは、「夢の国ハリウッド」の真の姿です。被害者の証言が映像で再現される場面。関係する場所やアイテムが映されて「行為」の場面は映されないのですが、それだけでも伝わる恐怖と暴力性。

 「その名を暴け」の邦題通り、最終的にはワインスタインとの対決になるわけですが、彼の顔を映さなかったのも良いなと思いました。劇中の台詞にあるとおり、「これは構造の問題だ」ということです。ある1人の強欲な権力者を罰すれば終わり、という話ではないということ。そうした人をのさばらせているシステムそれ自体を変えないと、同じことが繰り返されるということが、キッチリと描かれているからです。

 それはハリウッドに限らず、またアメリカに限った話でもありません。幾つもの言語で表示されるタイトル「SHE SAID(=彼女は語った)」。これは全世界に届くコンテンツを作ることができるハリウッドから全世界の人々に向けられたメッセージです。

 古今東西、立場を利用して、有形無形の圧力により、人の尊厳を蹂躙するような輩が存在する限り、このような出来事は終わらないし、そのような輩がいるということは、それを存在させているシステム自体にも問うべきところがあるということです。

 #MeTooは「当たり前を変える」運動ではなく、「本来『当たり前じゃない』のに『当たり前だ』とされてきたことを改める」動きです。

 「売名ではないのか?」「一線は超えていない」「認識が古かった」「困るとすぐ『ハラスメント』とか言うしさ…」など、かび臭い言い訳がなされる本作。これは一般社会でもよくつかわれる言い訳です。セクハラに限らず、パワハラ、マタハラその他様々なハラスメントについてそう言う人もいるけど、その人たちに、僕は問いたいです。

 「あなたは、本当にその人のことを見ていたのか」と。

 見た後、この映画で描かれなかった(描ききれなかった)人々や事柄に思いを馳せます。記事に名前が載った人など、声をあげた人もいる。様々な事情で声をあげられなかった人もいる。その人たちに起きたことは変えられないけど、僕たちはその人たちに起きたことをきちんと知って、他の人が同じ目に遭わないようにしたい。そう思える作品でした。

 映画館に行くことで映画業界の恩恵を享受している人はもちろん、全人類が「社会」というシステムに属している以上、1人でも多くの人に見ていただきたい作品です。

 「あなたはフェミニストか?」と「妻と子供に誓って……」には、正直「1回○そうかオマエ」って本気で客席でキレてました。
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