曇天

クライム・ヒートの曇天のレビュー・感想・評価

クライム・ヒート(2014年製作の映画)
4.5
トム・ハーディの作品を大して観てないのにマックスのお陰で自分の中で無口キャラが定着してしまった。そんな気力が薄く頼りなさげで、見た目には人の好さそうな奴が主人公のノワール。本作はそのハーディのイメージが見事にハマった傑作。ガンドルフィーニ回顧レビュー6本目。

ボブがバーテンダーとして働く店は定期的にチェチェンマフィアの金をドロップしておく銀行として使われている。ドロップバーに指定された日には店に汚い金が大量に運び込まれる。万一の事があれば自分達の身が危うくなるため、細心の注意を要する。

冒頭ではドロップバーの日、2人組の強盗に押し入られ5000ドルを盗られる。マフィアの金は回収された後で無事だったが、店のオーナーもチョフカというチェチェン人マフィアなので盗られた金を返さなければならなくなる。

ボブとカズン・マーヴは元は裏稼業で権勢を振るっていたようだが、今や店のオーナー権すらも奪われてて被雇用者の立場、失墜した日陰者としての日々を送る。「チェチェン人が来てからビビッてやめた」と言ってたので元々そんなに力はなかった模様。ボブが「マーヴが店を取られたのは10年前」と言うとマーヴは「8年半前だ」と正確に修正する。それほどに未だ店に固執している。マーヴにとって店は過去の栄光の象徴なのだろう。街自体も外国人マフィアにほぼ牛耳られてるようで、地元のギャングにとっては限りなく未来のない状況に陥っているように見える。

舞台はブルックリンだけど寂れた町並みが犯罪都市ボストンのよう。犬を拾ったことをきっかけに女性と交流し始めるが、犬の元の持ち主が現れ不気味な言動を取り始める。この、何もなかった生活の中に少しずつ不穏な影を落とし始める感じがやだみを増す。狭いコミュニティの中で回りに頼れる人が少ない時には、こう差し迫った危険じゃなくても怖いものは怖い。現実には予兆がなくても犯罪に巻き込まれる可能性は十分ある。そういう確率は地域全体の治安によって低く見積もれるけど。

トム・ハーディじゃなきゃこの朴訥さは出なかったと思うし、それと対照的に描かれたガンドルフィーニの役は、彼がずっと演じてきた「ソプラノズ」の役の続きを見ているようで上手い配役。ノオミ・ラパスはあまりオーラがない感じがリアルで良し!
事態は見た目にはそれほど深刻にはならないけど、構図は劇的に変化してしまう。犯罪が取り締まられずわだかまりが残るが、それが良しとされる結末。観やすい典型的ノワールだと思います。最近のでは『ナイトクローラー』や『アメリカンドリーマー』を思い出しました。おすすめです。
核心に迫る感想はコメントで。
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