曇天

サンバの曇天のレビュー・感想・評価

サンバ(2014年製作の映画)
4.8
この映画実は、監督の前作『最強のふたり』からは想像できないくらい多くの問題提起を含んだ題材を扱っている。フランス移民政策の事情や先進国の雇用事情の空気感を知ってるのと知らないのとではかなり感想が異なると思う。自分もなんとなくでしか分からなかったし、歴史モノ映画と違って付け焼き刃で語れるものでもなかった。だから今回は大雑把に。

主人公サンバの視点から見れば、一度失敗を食うと救済の手立てがほぼなくなる雑な移民政策の餌食になり転落していく様が描かれている。だがもう一人の主人公アリスの視点から見ると、人材派遣会社の激務で壊れた心身をサンバと触れ合うことで回復していく様が描かれて、最後には仕事にも復帰して名誉も回復し、一種のカムバックものとして展開が運ぶ。
分かりやすく言うならサンバは王子様ポジション。アリスがピンチの時に颯爽と駆けつけて元気づけたり、アリスとの待ち合わせに向かう途中で悪漢に襲われたりと、いちいち行動が王子的。白馬じゃなくて黒人であるところもミソである。そんな王子様は彼女を幸せにすることはできても自分は不法移民から脱することができずに落ちていく悲劇の王子。フランス人は自分達がやりたがらない警備員や建設作業員を移民にばかりやらせておき、代わりに何の救済も与えない。心情的には理不尽さを感じるが、どうするべきが正解なのか日本人には難しい。「自分の名前が分からなくなる」の台詞は冗談に聞こえるが重くのしかかる。つまり「そうまでして移民として働く理由が分からなくなる」ということだ。

正直オマールシー主演の移民問題を扱う話でここまで恋愛要素を盛り込んでくるとは思わなかった。恋愛描写には意外とリアルな生々しさがあって「こんなの映画で見せるのか」と面食らったシーンもあった。屈託の無いアイドルのようなオマールシーを誰かのものにしないで!という願望もなくはないし。だが観終わってみればきちんと恋愛やる必然性はある。お話的には不法移民という不安定な立場だからこそ恋愛させれば面白いし、移民だからといって恋愛していけないわけもない。映画内で黒人と白人の恋愛を描く意味も大きい。サンバは仕事の休憩中何度も一人で煙草を吸う、何より移民は孤独なのだ。

本国では不法滞在者をサンパピエと呼ぶようになった事件以来、問題意識が盛り上がっているようで。彼らの待遇がこれから少しでも良くなればいいんだけど。
自分は前作よりこっちが断然好きです。なんとも味わい深い。

リンク貼っておきます。今回参考にしたり、今読んでる途中のものです。
ポンコツの、社会論。 『サンバ』に学ぶ移民問題。
http://s.ameblo.jp/poncotts/entry-11983068070.html
超映画批評 「サンバ」65点
http://movie.maeda-y.com/movie/01939.htm
WEBRONZA 仏への不法移民、サン・パピエを支える市民運動
http://webronza.asahi.com/global/articles/2912100800001.html

関係ないけどこの映画の空港周辺のロケーションがもの凄く好み、移民収容所見たさにパリに行きたくなったくらい。ああいう広い駐車場に面したガラス張りの建物に滅法弱いんだ、二人が夜中にお茶したガススタンドもイイ。なんだかいいなあ外国は。
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