JunIwaoka

セッションのJunIwaokaのレビュー・感想・評価

セッション(2014年製作の映画)
4.5
原題:Whiplash
2015.4.7 @ GAGA本社 試写室

やられたーー!!とラストシーンに思わず唸ってしまい、そこからの息をのむ怒涛の展開はただ見守ることしか出来ない。打ちつけるドラムに圧倒されたまま、カタルシス押し寄せるなか突然蚊帳の外へ放りだされたように唖然とした。なんて映画なんだ!!これは甘ったるい青春映画でもなければ、美しいサクセスストーリーでもない。高みを目指すことは血眼になりながら限界を越えるまで向き合うことで、手に血が滲んだとしても腕に力が入らなくても諦めるという選択はもはやない。全ては自分のためだけに諦めない。またその可能性ある若者を"私のバンド"に招くために尋常じゃないほど追い込み、多くの犠牲を強いらせてまで才能を開花させる。この二人のエゴイズムを美学というか狂気というかはもはや分からない。美徳とされていた時代に青春をした世代がこういう作品を撮るなら分かるけど、30歳になったばかりの監督が描こうとした真意はまったく分からなかった。
もちろん俳優陣の演技は文句なし。アカデミー賞授賞式で"みんな両親に電話しろよ!"なんてスピーチをしたあんなに優しい表情のJ.K.シモンズが鬼畜同然で、初めてスクリーンに表れた瞬間から一挙手一投足の緊張感がすごい。それは組んでいた脚を正し、座り直して背筋を伸ばしてしまうくらいに。珍しくひたむきなマイルズ・テラーも彼の性分である軽薄さが光り、だからこそ彼も虚ろな目をした狂人でいられる説得力をもつ。
若い監督ならではの現代的なアプローチで演出の巧妙さが際立つ。接写によってアンドリューの主観で描き、フレッチャーという不条理な恐怖に対峙させる。そして丁寧に伏線を張ってぐいぐいと引き込ませる展開ながら、真意をぼかすことで二人の関係性を緊迫感を増長させる。そして繰り返される描写が追い打ちをかけて、個人的に胸に抱える瑣末な感情を昇華させて、全てはこのためだと言わんばかりにラストシーンへ誘う。こんな映画に出会えることが嬉しい。クオリティが高いから何度でも観たいけど、あのカタルシスはたった一度しか味わえない。それにそのカタルシスはスクリーンの外で観ているだけでは負け犬だってことは分かっている。
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