カトキチ

フェイク シティ ある男のルールのカトキチのレビュー・感想・評価

5.0
馳星周や大沢在昌における「オレの新宿」と同じく「オレが思い描く、オレの好きな野蛮で剣呑なLA」を舞台に、有色人種蔑視する刑事。丸腰の相手をいきなり撃ち殺す刑事。死体に銃を握らせ、撃ち合いに見せかける刑事。基本的にアル中の刑事。電話帳で容疑者をタコ殴りにする刑事。というか、基本的に悪徳な刑事……などなど「いよっ!待ってました!これを!」といえる様式美が連発されていく作品(しかも今作ではそれを一人のキャラクターに集約させている)。

その独自の様式美を持っているのが“アメリカ文学界の狂犬”ジェイムズ・エルロイ。『L.A.コンフィデンシャル』と『ブラックダリア』が有名だが、彼が関わった映画のなかでも脚本にクレジットされた『フェイクシティ』はそのエルロイ印が最も色濃く出た作品だといえる。

キアヌ・リーブスといえば、ボケーっとした醤油顔でもってスタイリッシュな役柄を演じているが『スキャナー・ダークリー』のようなイカレポンチのキャラクターが似合っていると思っていて、今回も不摂生したといえるダルダルの体型で、仕事はきっちりするもののツメが甘い軽佻浮薄なキャラクターを見事に演じている(キアヌ演じるトムは『獣どもの街』に出てくる“テレフォンブック”トムと同一人物だそうだ)。

明らかにこいつしかいないという真犯人の登場など、ご愛嬌な部分も多く。ビデオスルーされて、レンタル店のセガールやジェイソン・ステイサムの棚のあたりに置かれてるような感じもあるが、そもそもエルロイのノワールは「悪に染まり切ったせいで自分が何をしでかすかわからないという恐怖につねに怯え(故に酒に逃げている)、後戻りできないまま地獄の底まで突っ走っていく」というものなので、それを念頭にいれて観ることをおすすめしたい。

ちなみにエルロイ原作でこの作品の監督であるデヴィッド・エアーが脚本を手がけた『ダーク・スティール』をこの後に観たのだが、中身はほぼほぼ一緒だった。デヴィッド・エアー自身がエルロイ好きなのだろう。そういった意味でも、やっぱりセガールとかステイサムの棚に置かれても当然な気が……
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