真田ピロシキ

花とアリス殺人事件の真田ピロシキのレビュー・感想・評価

花とアリス殺人事件(2015年製作の映画)
3.8
『花とアリス』の前日譚となるアニメ作品。当時聞いた時は何で今更と思いアニメでやる意味も鈴木杏と蒼井優を続投させられることくらいしか浮かばなかったのだけれど、これが見てみると実に岩井節です。ブルーを基調とした岩井俊二の色彩美はアニメでより強調され、実写で撮った映像をトレースされた動きは一味違ったアニメーションを見せる。美術はほぼほぼ写実的で、声優は『花とアリス』の俳優陣がそのまま演じてることもあってか実写でないけど純粋なアニメともやや違った雰囲気。この虚実入り乱れた感じは正しく『花とアリス』だと感じます。

ストーリーは『花とアリス』でも少し触れられていた花屋敷の引きこもり少女の真相について。引っ込み思案な花の姿を覚えているので割と重い話かと思っていたらあまりそんなことはなかった。花のドン引き恋愛術には前科アリ。それだけの行動力があるなら宮本先輩にもあんなことやってこじらせる必要なかった気が(笑)花よりしんみりするのはアリスの方。イジメようとからかってきたアホ男子を返り討ちにするなど勝気なアリスであるが、両親の離婚間もない頃らしく(引越しの原因?)苗字を書き間違えたりする。印象的なのはユダ父と間違えて尾行した初老のおじさんとのやり取りで、おじさんへの行動とお父さんへの行動が被ってるし、両者が同じ声なのでおじさんは擬似父として描写されている。口には出さないものの寂しさがいくらかあるのだろうと思え、そんなアリスだから誰にも言えない不安を抱えてた花と親しくなったのだと思う。

キャラデザに蒼井優も鈴木杏も面影ないなと思ったりアリスのお母さんが若すぎると感じたりもしたけれど、行間を感じさせる演出はちゃんと『花とアリス』であり岩井俊二の映画だったので満足してます。