こたつむり

ヴィンセントが教えてくれたことのこたつむりのレビュー・感想・評価

4.3
かつて来た道、いつか往く道。

正直なところ、よくあるタイプの作品です。
捻くれた老人が素直な少年と触れ合い、人間関係を築く…うん。どれだけ、このパターンの映画が作られたのか…それは分かりませんが、物語としては王道。見慣れてしまってお腹いっぱい!と思う向きがあってもおかしくないと思います。

僕もそんな印象で鑑賞したのですが。
観終えた後に、一陣の爽やかな風が心を吹き通るのは何故なのでしょうか。老人も、少年の母親も、夜の女性も、学校の教師も。感情を共有できる部分が少なく、むしろ眉を顰めてしまう言動が多いのにも関わらず。いつしか、彼らを受け入れているのです。

これは真正面から人間賛歌を描いたから。
…なのだと思います。頭が悪くても、お金が無くても、口が悪くても、視野が狭くても。大切なことはそんなことではない、と。映画の要素全てを使って全力で向かってくるから、気付けば頬に熱いものを感じるのでありましょう。

例えば、配役を振り返っても、全力。
特にビル・マーレイの存在感が圧倒的でした。こういう作品には欠かせない俳優さんですよね。ウィキペディアによれば、ジャック・ニコルソンも候補の一人だったとのことですが。うん。紆余曲折はあれど、本作の選択は成功の要因のひとつです。

また、音楽を振り返っても、全力。
良い映画には良い楽曲が付き物。これがストリングス系を前面に出した叙情的な曲だと、「ほれ泣け、やれ泣け」と言わんばかりで冷めてしまうのですが、本作は軽妙で高揚感溢れる旋律なのです。特にそれが顕著なのがエンディング。是非とも最後まで楽しんでください。

更には、脚本を振り返っても、全力。
「人間、誰もが素晴らしい」と言い切る覚悟が物語の隙間から見えるのです。“全てを肯定する”なんて勇気と覚悟が無ければ出来ない選択ですからね。たとえ理想主義者と揶揄されようとも。最後まで手を伸ばす姿勢に賞賛を贈りたいのです。

というわけで。
よく見かける物語を全力で映し出した作品。
人間全てを肯定するテーマの作品ですからね。作品のほうから観客を否定することはないと思いますので、気が向いたときに気楽な立ち位置で鑑賞するのが一番良いと思います。
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