小波norisuke

ボーダレス ぼくの船の国境線/ゼロ地帯の子どもたちの小波norisukeのレビュー・感想・評価

4.9
始まってしばらく台詞が一切ない。それでもカメラワークが非常に魅力的で惹き込まれる。廃船に一人で暮らす少年。工夫が凝らされた船内は、すこぶる上等な秘密基地のよう。とても居心地がよさそうだ。おそらく苛酷な状況を経てこの船に落ち着いたのであろうが、少年がたくましく、生き生きとしていて、見ていて愉しくなる。船の中から魚を釣り、干物にし、貝を細工して、露店で必要な品々と交換する。その交換の場面まで無言である。

少年だけの城に、突如、侵入者が乗り込んでくる。少年とほぼ同年齢くらいに見える、少年兵。銃を向けて威嚇してくる。発した言葉はアラビア語。ここではじめて少年が発する言葉はペルシャ語で、互いの言語は理解できない。両者の間に、互いを警戒する緊張関係が生まれる。

侵入者である少年兵が勝手に船の上にロープを張って、国境線を引く。このロープが暗示している。現実に、国境線なんて、ずかずかと乗り込んできた侵入者に恣意的に引かれてしまうものなのだと。もともとの居住者である少年も、負けじと、自分の領土を青くペンキで塗って主張するのが面白い。

この国境は後に取り払われるのだが、新たな侵入者が現れ、再び緊張が走る。築かれては崩され、またしても築かれる国境。しかし、最期に国境は崩される。互いに言語が通じず、互いの国同士が争いのさなかにある、寄る辺のない者たちが、船の中で心を通わす様子が美しい。

平安は長く続かない。ラストの少年の表情。瞳はしっかりと見開かれているが、頬には涙の後が見える。

緩急のバランスがよく、終始飽きることがない。廃船を舞台に、世界の縮図を見せる。国境も言葉も要らない。皆、必死に生きている者同士なのだ。ぷっくりと太った赤ん坊がやすらかに眠る表情が忘れられない。

 
小波norisuke

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