わたしの顔をじっと見つめたかと思えばひとこと、「笑ってるのに泣いてるように見えて」と力強く抱き寄せたきみは、肩口におでこをくっ付けてしずかに泣いていた。
思えば昔からきみは、すこし変わったひとだった。夏の陽射しに照らされてむっと顔を顰めたわたしを横目に、さっきまでお気に入りのそのカメラのレンズをやさしく拭いてみたり、つまらなそうに欠伸をこぼしたりしていたくせに、あの日も焦った顔をしてやっぱりくん、と手を掴んでいた。
「きらきら輝いててさ、消えてしまいそうで。だから、不安に思って咄嗟に。ーーー」
わたしはずっと前から夏がすきで、夏が苦手なあなたがとてもすきだった。「おまえが夏を好むなら、俺もまあ、大切にしてあげようかな。」なんて鼻をかく横顔が愛おしかった。
『白河夜船:知ったかぶりをすること、または、ぐっすり眠り込んで、何が起こったか知らないことのたとえ。』
夏、うみ、きみを想う。
お洒落な言葉でいいから、
少しでも触れられた瞬間 憧れで終われない
色のない輝きを追うばかり
探ってしまう歌が きみには届きませんように
小さな船流れ出す
ただ力の抜けた光る方へ
🎧:君がいて水になる/ずっと真夜中でいいのに