幻

花束みたいな恋をしたの幻のレビュー・感想・評価

花束みたいな恋をした(2021年製作の映画)
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5月、好きだったひととの初デート、電話越しに緊張しながら組んだデートプランは「付き合って初デートどこ行った?って聞かれたときにセンスいいねってちょっと驚かれるような場所がいい」って彼が言って ピクニックだった。ひとつひとつ、ぜんぶがどきどきで、横並びにドーナツを齧ってたっけなあ。はじめてなのに無言が痛くなくて、小さく鳴らしたカネコアヤノだったり、木の枝をあつめるちいさな男の子に癒されたりなんかして、あ〜手、繋ぎたいなあなんて思ったけど言い出せなかった。夜、まだ帰りたくなくてふたりでカラオケに駆け込んだら「クロノスタシス知ってる?歌ってよ」って言われたこと、この映画を観て思い出した。知らなかったことをすごく残念そうにしていた顔、だとか、映画ひとつで記憶がぶわ〜って蘇る。好きだなって思ったんだ、エスカレーターの上りはぜったい後ろに立ってくれるところとか、危ないよって肩を引き寄せてくれるかっこいい横顔とか。なによりも好きだったのは言葉の選びかたで、やわらかい話しかたがとてもとても、すきだった。はじめましてが、さようならになるなんて思わなかった。これからいっしょに居てくれるのかなって、いっしょに居られるんだろうなって思っちゃってた。また会えるって、わたしたちいつか恋人同士になれるんだって。「通話につかれちゃって」って口にされてしまったとき、ごめんねって言わせてしまったとき、ぜんぶが崩れてしまった気がした。手を伸ばして、解かれるのがこわかったから、触れることができなかった。わたしはいつだって拒絶されること、すきなひとからのすきがなくなっちゃうことがこわくて、だから逃げ出してばかりだ。あのときも、「そっか」って、すきだと言えずに逃げだしてしまった。

『数パーセントに満たない生存率の恋愛を、わたしは生き残る』

生き残ってみたかった。きみと歩く未来が、ほしかった。いいところしかしらないままだったからこんなにまだ、思い出してしまうのかもしれない。でもきっとね、どんなところがあったとしても愛し抜けたとおもうんだ。「夏も俺と一緒に居てくれる?」って掛けてくれたの、覚えてる?わたし、来年とか、次の季節のはなしをするひとほどそのときには居なかったりするから未来の約束をすることがとても苦手、なのにきみのいま思う未来のなかにあたりまえみたいな素振りでわたしが存在できていることがうれしくって、期待して信じてしまう 願ってしまう、思い出してしまう。愛されていたやわらかい思い出にくるまっていつまでもくるしい。ねえ、あのね、きみの目にこんな文章、届くわけないから言わせてね。まだ、すきだよ。きっとこの映画を観るたびに、きみがすきな曲が流れてくるたびに、思い出してたまに泣いちゃうと思う。でももう、きょうで、さようなら。この映画も、きみも、出逢えてよかった。
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