さわだにわか

死んでもいい経験のさわだにわかのレビュー・感想・評価

死んでもいい経験(1995年製作の映画)
4.0
H・G・ルイスのへっぽこ残酷映画から血糊を抜いたような行き当たりばったりの即席感あふれる作りでなにがなんだかわからないが、キム・ギヨンの映画は社会のシステムの記述だと思っているので、これも、自動車教習所での主要登場人物三人の交通事故という意図的ではない社会のルール破りから話が始まるというのは示唆的に思う。
ちゃんと世の中のルールに従ってる間は平和に楽しく暮らせるが、その平和はルールでカバーしきれない偶発的な事故の存在を覆い隠して、ひとたび事故に遭ってルールの外に出てしまうと、このルールはもう人間を守ってくれないばかりか意図せぬルール破りを咎め、敵対的なものに姿を変えてしまうんである。

団地に暮らして車を持ってて子供が男の子と女の子一人ずつぐらいいてもちろん夫婦は男と女、みたいな標準化された家庭イメージがこの映画の中心に置かれた夫婦かくあるべしのルールで、生理的であったり心理的な理由でそこから外れてしまった二組の夫婦と一人の女はそのことで社会から罰を受けることになる。で、標準化された家庭像を取り戻すことに取り憑かれてこの人たちは奇々怪々な報復合戦を繰り広げるのだ。

軋みを上げているのか工事の音なのかよくわからないがなにやら不穏なノイズを発する大きな吊り橋が途中何度も挿入される。原始社会の神の像のようなもので、とりあえずそれに縋ってしまいたくなる威圧感があるが、いつか崩れてしまいそうにも見える。この橋を往来して主人公の夫が売り歩いているのは生命保険なのだから皮肉である。皮肉というか、これは寓話なんだろう。豚とか馬とか出てくるし。

部屋で猟銃を撃ってた壊れ夫が錆びたブランコに揺られる場面がよかった。壊れ夫の鈴木清順の映画に出てきそうな腹心も謎が深すぎて良い。濡れ場に被さる馬のいななきSEには笑う。
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