TAK44マグナム

ブラックパンサーのTAK44マグナムのレビュー・感想・評価

ブラックパンサー(2018年製作の映画)
4.2
戦うのか?
共に生きるのか?


世界中で大ヒットを記録しているマーベルヒーロー「ブラックパンサー」。
その原動力は間違いなくブラックパワーであり、エンターテイメントの世界での事とはいえ、これは無視できない大きな出来事なのではないでしょうか?


「シビルウォー」でのテロ行為によって国王を失ったワカンダ国は、新たなる国王として忘れ形見のティ・チャラを選ぶ。
新国王としての初仕事は、ワカンダ因縁の相手であるクロウの捕縛。
そのために元カノや親衛隊長と共に韓国へ飛ぶが、そこには旧知のCIA局員がいて・・・?


まず大前提として、アフリカの小国としか認識されていないワカンダ国が、実はヴィブラニウムというありとあらゆることに利用可能な万能の資源が地球上で唯一存在する国であり、どこの国よりも文明が発達しているという設定があるわけです。
これは凄い。画期的だと思います。
その気になれば他国を侵略することも易々と出来るであろうに、何世紀もの間、ワカンダは自身を発展途上国と偽り続け、他国への干渉を禁じているのです。
何故かというと、それはワカンダを守ることになるからなのですが、それだけの技術や資源がありながらアフリカの同胞たちが抑圧されていても表立って助けることも出来ないというジレンマも抱えているわけです。
この設定が本作の根幹となり、ヴィランとなるキルモンガーを生み出す理由にもなっています。

キルモンガーは、その出自もあって、他者を踏みにじる道をすでに選んでおり、それを変える気がありません。
では、対するティ・チャラは・・・?
他者と戦う道を選ぶのか、それとも共存共栄の道を選ぶのか。
王たる者、いつかは道筋を作っていかなければならない使命があり、王によって民の命運が決まるといっても過言ではないのです。
ラストに、ティ・チャラが選ぶ道は、はたしてどちらなのか?
それはキルモンガーとの戦いを通して得た答えに違いなく、本作は選択を誤れば敵を作ることに繋がるということを王が学ぶ物語なのだと思いました。
まさしく、キルモンガーこそが誤った選択が生んだモンスターだったのです。
ヴィランのバックボーンがそのまま物語のテーマと直結していて、この辺りはシナリオ的にかなり巧い運び方だなと感心させられました。

共存共栄と言っても、それは決して簡単なことではないはず。
それだけの文明を前にして大国が大人しくしているわけがない。
そこで、一筋の光として「シビルウォー」に登場したCIAのロス捜査官が本作にも再び登板し、重要なポジションを担うわけですね。
作り手側の良心と言うべき存在なのかもしれません。

世界平和へ向かう人類という図式は、たぶん次作の「アベンジャーズ/インフィニティウォー」へのブリッジであり、サノスという宇宙からの絶対的な敵によって、初めて人類はひとつになるのではないでしょうか。
そして、その間の紆余曲折も描かれるのではないかと予想します。
なにせ、考え方の相違によってアベンジャーズでさえ一枚岩でいられないのですから、70億の人類が急に「みな兄弟」になれるわけがありませんしね。


余談ですが、もしかしたら本作を観て曲解するかもしれない将軍様がいますよね(汗)
誰からも相手されていない小国が強大な力を持っている・・・いかにも喜びそうなネタじゃないですか。
でも、かつての日本だってたぶん拍手喝采だったかと思いますよ。
バブルの頃の日本は、まさしくワカンダみたいなもの。
今はピンとこないかもしれませんけれどね。


こういった深いテーマ性の面では傑作だと太鼓判をおせるのですが、アクションを中心とした娯楽作という面でみると、さすがにアメコミヒーローものも飽和状態という事もあって新しい魅力を感じにくい出来ばえでした。
大人数での乱戦も、戦闘機での空中戦も、既視感を拭えずじまい。
韓国パートは割と面白かったですが特筆するほどのものでもないし、なによりもヴィランであるキルモンガーも同等の能力をもつブラックパンサーになってしまうわけでして、ほとんど変わらない者同士が戦うのは見せ方のヴァリエーション不足を招いてしまっております。

それにしても、あまりにもヴィブラニウムが万能すぎて、もうスターク要らないんじゃないかと心配になってしまいますよ(苦笑)

個人的には、かなりの問題作であり、ある意味ブラックパンサーである必要でさえないような気もする異色作でもあると感じました。

根底にあるのは間違いなくブラックパワー(あまりこの言葉は好きではありませんが)で、それが本作をおしあげる理由とは、人種差別問題を扱った映画は他にもたくさんありますが、彼らの「誇り」という大切な心の拠り所をストレートに扱った映画だったからではないでしょうか?
世界に誇れる最高の故郷があって、そこには誠実で優しい王がいる。
その王は黒人であり、誰よりも強く誇れるヒーローなのです。

他者によって抑圧されてきた者が最後まで失わない「誇り」。
それがこの映画から感じられたからこその大ヒットであり、その事実がまた新たな「誇り」となって刻まれてゆくのかもしれません。

ブラックパンサーは「アベンジャーズ/インフィニティウォー」でスクリーンに帰ってきます。
一体どんな世界で、どんな王となっているのか・・・
彼の選択の先には何が待ち受けているのでしょうか?


劇場(シネプレックス平塚)にて