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心が叫びたがってるんだ。のBellのレビュー・感想・評価

心が叫びたがってるんだ。(2015年製作の映画)
5.0
『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』のスタッフによるアニメ映画、ということで、とても話題でしたよね!

実は『あの花』は、設定くらいしか知らない私なのですが、ずっと興味はありまして、鑑賞です。


主人公の成瀬順は、お喋りが大好きな活発な女の子でした。
彼女は、自分の住む街にある「山の上のお城」が大好き。
お伽噺の絵本に出てきそうな、洋風なお城。
まだ幼い彼女は、その「山の上のお城」が、本当は何なのか知らず、幼い故の純真な心で、そのお城に出入りしている「男女」は、お城の舞踏会に招待された王子様とお姫様なのだ・・・と信じていました。

ある日、順は、その「お城」から、彼女の父親が女性と一緒に出て来るのを目撃します。

一緒にいた女性は、順のお母さんではなかったものの、幼い彼女は、自分のお父さんがお城の舞踏会に出入りしている王子様だったと知り、大喜び!

家に帰るなり、台所で家事をしていたお母さんに、

「お父さんが、山の上のお城から出て来るのを見たの! お父さんって王子様だったんだね。一緒に居た女の人はお母さんじゃなかったけど・・・お母さんはお料理してたから舞踏会来れなかったんだよね!」

と、言ってしまうのでした。

幼いが故の純真さで。

しかし。

大人なら分かることなのですが、彼女の言う「山の上のお城」とはラブホテルのことで。そして、そこから父親が他の女性と出て来たということは、すなわち、彼は浮気していたということ。

順の、何気ない純粋なこの一言により、両親は離婚。

母親からは「それ以上喋るな」と言われ、父親も去り際に「全部、お前のお喋りの所為でこうなったんだ」と言い放ちます。

そして。

そのことがトラウマとなった順は以来、言葉を封印し・・・。

月日は流れ、順は、全く喋らない高校生になっていました。
無理して喋ろうとすると、お腹が痛くなってしまう・・・だから喋れない。


そんな彼女が、あるきっかけで「地域ふれあい交流会」の実行委員をすることになります。

実行委員のメンバーは、順と、本音を語りたがらない少年・坂上拓実、野球部のエースだったものの、甲子園に手が届きそうなところで腕を故障し、チームは敗退、野球部内でも居場所がなくなってしまった田崎大樹、優等生なチアリーダー部員の仁藤菜月の4人。

最初は面倒なことを押し付けられたと思っていた4人ですが、段々と交流を深め、そして、喋れない順に歌を歌わせてあげようと、地域ふれあい交流会の出し物をミュージカルに決めるのでした。

こうして、バラバラだったクラスメイト達も一つに纏まっていき、ミュージカル上演に向けて一生懸命取り組んでいきます。
自分の殻に閉じこもったままな順も、皆に対して心を開くようになっていき・・・。


というお話です。


とても綺麗な映像で、でも、冒頭からいきなりショッキング・・・というか残酷な現実が突きつけられる展開でした。

父親の浮気現場を、そうとは知らずに、でも、結果的には母親に告げ口したことになってしまった主人公・順。

まだ幼かった彼女は、自分の話したことの何が悪かったかなんてわからないまま、両親が離婚してしまい。
そして、それを自分の所為だと罵られ。

もう可哀想で、可哀想で。

冒頭から涙腺崩壊(;_;)

彼女は何も悪くないのに・・・。
悪いのは全部、大人なのに。

それでも、自分のお喋りが原因で家族がバラバラになったと責任を感じた順は、自らに喋れない呪いをかけてしまうのですよね・・・。

可哀想過ぎます。

喋れない故に、友達もおらず、学校でもいつも独りぼっち。

そんな彼女が、いきなり担任の先生から、地域ふれあい交流会の実行委員に任命される訳ですが。

誰も居ない音楽準備室で、アコーディオンを弾きながら歌っていた拓実に惹かれ、少しずつ、交流をしていく内に、「喋る」のではなく「歌う」のだったら、お腹が痛くならないということが分かるのですよね。

きっと、順も、本当は、お母さんに対しても、友達に対しても、喋りたいことがいっぱいあって。
でも、ずっとずっと、喋れない呪いの所為で我慢していたのでしょうね・・・。

順の母親は「言わなきゃ分からない!」と喋れない彼女を叱りますが、でもでも。
確かに言葉にしなきゃ分からない、伝わらない、それは事実。
でも、伝えたくても伝えられない、喋りたくても喋れない、そういうことだってありますよね。
伝えられない、言葉にできない、でも、本当は相手に分って欲しい、気付いて欲しい。
そんな想い。

順の心は、いや、順だけでなく、拓実も、大樹も、菜月も、皆、口には出せないけど、でも、伝えたい想いをいっぱい抱えている子達で。この映画のタイトル通り、『心が叫びたがっているんだ』という状況なのです。

それが、本当に切なかったです。

この映画のテーマは「言葉」なのですが、本当に、言葉について考えさせられました。

確かに言葉にしなければ、伝わらない事、分かって貰えない事も多々あります。
でも、その一方で、一度口にした言葉は取り返せないのも事実。

例えば、ひと時の感情に任せて、相手を傷つけるような言葉を発してしまったら・・・。
その言葉が相手の心に与えてしまった傷は永遠に消えない。

言葉って、愛情にもなるし、凶器にもなるし。

ひとことの言葉で励まされる人もいれば、傷付く人もいる。

言葉って難しいなぁと思いました。


言いたいことを言えないのも苦しいけど、でも、それを言った事によって相手に不快な想いをさせたり、相手を傷つけたりしたら?

そう思うと、なかなか、思った通りのことを口に出来ませんよね。

そういうの痛いほど分かります。


なので、軽はずみに何でも口にしちゃう行為は・・・私は好きじゃないです。

大切な大会中に、腕を故障してしまった野球部の元エースの大樹。
彼の事を、陰で悪口言ってた野球部員達は、正直、気分悪かったな。
故障して一番傷付いているのは、大樹なのに。
そんなことは一切考えずに、自分達のことばかり。

でも、そんな大樹もまた、実行委員会の時に、順に対して酷いことを言いました。

だけど。
大樹も、そして、野球部員達も、自分達の言葉が誰かを深く傷つけたということを知り、反省し、そうやって、言葉の大切さに気付いて行ったのだろうなぁとも思うのです。

人を傷つけるのは良くないですが、人を傷つけると自分も同じくらい痛い・・・という事を知れば、きっと、もう同じ過ちは繰り返さないはず。

大樹も野球部員達も、そういう大切な事を、喋らない順から教わったことと思います。

また、拓実も、菜月も、喋らない順から学んだり、感じたりしたことも多かったことでしょう。

喋れなくても、順の想いはちゃんと伝わってて。
ジーンと来ました。

それでも、やっぱり、「言葉」にすることは大切で。

不器用ながらも、健気に想いを伝えようとしていく順の行動に心を打たれました。


それぞれ、心に悩みを抱えていた4人が、ふれあい交流会でミュージカルを作り上げていくことによって、段々と、その悩みを乗り越えていく姿がとても良かったです。


そして。
ほんのり恋愛テイストもあります。

・・・私としては、順の初恋を叶えてあげたかったですが。
でも、映画を見ていると、順の好きな人は、別の女の子を想っているのが伺えてきましたし・・・。
切なかったな。

でも、なんでもかんでも巧く行きすぎるより、順の初恋は失恋で終わっちゃう方が、リアルなのかもしれないなとも思えて。

良い結末だったのではないかと思います。


そうそう。

わたし的には、4人の担任の先生が好きでした。
飄々としていい加減なように見えて、実は、よく生徒の事を見ているなぁって。

本当は、彼らの事を色々心配しているだろうに、それを見せないというか。

押し付けない思いやりって感じで。
良い先生だと思いました。


ミュージカルを作り上げる~~という物語なので、作品中にも、有名なミュージカル音楽やクラシック曲が色々と登場します。
綺麗な音楽に、綺麗な映像に、綺麗な物語。

素敵な映画でした。
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