KUBO

はなちゃんのみそ汁のKUBOのレビュー・感想・評価

はなちゃんのみそ汁(2015年製作の映画)
3.8
基本的に人が死ぬ映画は嫌いだ。美少女が白血病なんていうのは論外だ。で、今日はお仕事で「はなちゃんのみそ汁」を見た。泣けた。

結婚直前に乳ガンであることがわかった千恵 (広末涼子)。片側乳房の切除手術の後、抗ガン剤治療を継続して行っていたため卵巣機能が低下し、子どもは作れないだろうと医師に言われながらも信吾 (滝藤賢一)は結婚に踏み切る。闘病生活=新婚生活というと随分辛く苦しいだけの画面になるかというと、そういう訳でもない。

監督・脚本を手がけたのは「ペコロスの母に会いに行く」で脚本を担当した阿久根知昭。2013年キネマ旬報ベスト・テン第一位に輝いた傑作だ。初メガホンの阿久根監督は、辛い話の中にもギャグを散りばめ、時にオーバーな演出で、作品に軽妙な味付けをしている。

主演は、千恵役に広末涼子。夫の信吾役にドラマ「半沢直樹」での怪演以来人気急上昇中の滝藤賢一。主演クラスでの映画出演はこれが初めてじゃないかな? それこそ、ちょっと前までは「亀岡拓次」ばりの名脇役俳優だったわけで。そして娘のはなちゃん役の赤松えみなちゃんは、監督に「怪獣」と言わしめた逸材。彼女の自然な演技が作品にリアリティを与えてくれていると言っても過言ではない。

中盤以降、千恵ははなちゃんにみそ汁の作り方を教え「みそ汁を作るのははなの仕事よ」と約束させる。実話に基づいた本作のキモはここにある。ただガンになって死んじゃって悲しいね、といった薄い作品ではない。ガンにならなくても人は皆いつかは死ぬ。親子にとって大事なのは、親から子へ、大事な何かを伝えることができるのか、ということだ。十分健康で、長い時間があっても伝えられない親子もいる。千恵は、限られた時間の中で、その何かを伝えたのだ。

私は千恵の葬儀のシーンでは泣かなかった。ただ、最後に信吾にはなちゃんがみそ汁を持ってくるシーンで、思わず涙した。そこに、はなの中に「千恵」を見たからだ。千恵ははなの中に生きているから。

実は私の家族にもガン経験者が多い。10年ほど前に妻、父、母と立て続けに入院、手術を繰り返した時期があった。おかげさまで早期発見で今は皆元気に暮らしているが、借金をして入院費を捻出したり、当時は子供も小さかったので朝あずけて仕事に出かけ、夕方子供を連れて病院へ通ったり、映画を見ながら我が事と重なった。妻ももし転移していたら、同じように父子家庭になっていたかもしれない。

その年、妻の手術は4月と7月の2回行われた。手術は無事成功したが、我が家恒例の夏の宮古島旅行には行けていなかった。妻が退院後、経過も良好だったので、どうしても宮古に行きたいと言う。11月、文化の日の連休に宮古に来ることができた。前浜の海を見て、生きててよかったね、と笑顔を交わしたのを思い出した。生きてるとケンカばかりの夫婦だけど「生きててくれてありがとう」と、そしてもう20歳になった子供に「自分たちは大切な何かを伝えられているのかな」と考えさせてくれる作品であった。
KUBO

KUBO