せいか

ディオールと私のせいかのレビュー・感想・評価

ディオールと私(2014年製作の映画)
3.0
10/03、AmazonPrimeにて視聴。字幕版。
ラフ・シモンズがディオールのアーティスティックデザイナーに抜擢され、その初めてのコレクションを通常からは考えられない短期間の8週間で何十着も作ることになってディオール一同てえへんだをやっていた時に密着したドキュメンタリー。
私自身、ファッションには浅いながらも興味があるので、各ブランドのコレクションなんかも出ればチェックしていたりはするけれど、いかんせん広くチェックするとキリがないので、よほど特に好んで見ているブランドとかでない限りはまずざっとコレクションの一覧を見て好みのものがあるかとかで大部分は篩にかけてからとかいうことをやっているのだけれど、本作を見てて、そうやってインスタントに振り分け行為を行っているコレクションにはそれぞれに数多の人々が関わって情熱を傾けてるのだということをこれからはもっともっと意識しなさいよと自分に思い、反省したりした。折に返してそこは思うところだけども、瞬間瞬間で当たり前のように消費したり使ったりしている物たちは全てその背後には数多の人たちが居て、夥しい何らかの情が込められているのだよなあ。そして本作はそういうことを主張する側面もあったと思う。

作品を通して、クリスチャン・ディオール自身のドキュメンタリーも取り入れつつ、てんやわんやをしているディオール一同の様子を映し出していて、一つのブランドを創り上げること、そしてそれを引き継いでいくことの双方に形を変えて存在する重み。ブランドの顔となるひとも居れば、表には出ないけれどこれを支える数多の従業員たちがいて、特にここでは針子たちのプロとしての仕事に注目されていた。
特にプレッシャーの掛かり方が尋常ではない立場のラフ・シモンズさんがやや狭量になってしまっているシーンだとか、それを周囲がカバーするシーンだとかがあって、観ているこちらも胃がキュッとする。余裕がないと人は狭量になってしまうのだよな。だいじよな、ゆとり。コレクション発表はゆとりだけじゃどうにもならないところはあるけど。でも、この点で言えば、とにかくひたすら追い立てられてスクラップアンドビルド状態で作業を強いられては遅くなると責められている針子さんたちが注意は怠らないようにしつつもいつも場の空気を強張らせないように振る舞いつつプロとしての技も見せていて、ずっとめちゃくちゃ格好良かった(しかもこのコレクション作業と並行して通常勤務も有りという状況下なのだ……)。オーバーワークはよろしくないけど、プロとはというのを嫌味なく見せてくれていた。マジで格好いい。
今回はいろいろセンセーショナルさが勝って画面映えもしやすかったのもあると思うけど、普通の納期で仕事してるときのディオールも観てみたいものである。
あと、2022年にラフ・シモンズさんは自身のブランドを閉じたので、今、このドキュメンタリーにもし追加できるとしたら、そのへんとかも絡ませるのかなと思いもした。創設者の名を冠したブランドというものというのはこの作品でも柱の一つとして扱われているので。

ラフ・シモンズさんもそうであるように、メインとなるデザイナーは数年すれば新陳代謝のように変わり、でももっとゆっくり流れる血として従業員たちがいて、たぶんモデルたちのような過客のような存在も無数にいて、そうして「クリスチャン・ディオール」という形は何か核となるものは引き継ぎつつ保たれていく。……のだけど、作中でも触れられていたけれど、デザイナーにはそれぞれやり方にしろ何にしろ個性があって、それでその存在の新陳代謝に付き合うことになる周辺の人たちはそういう意味でも大変そうだなと思ったし、そうやって刺激されることもたぶん必要不可欠なことなのだろうなあとも思ったり。一つの箱があってそこができるだけ健全な組織であるためにはその中で立ち回る人々はどういうものでどういう交流があればいいのかみたいなのもちょっと考えつつ観もした。ある種の一つの社会や世界だなあというか。


コレクションの発表会場を針子さんたちが下見するときに、私はここには場違いねと冗談半分で言いながら歩いていた場面がなんだか一番印象深かった。ラグジュアリーではない、ほとんど普通のおしゃれ着なり服を着たそういう人たちによってクリスチャン・ディオールのオートクチュールは作られていて、片やその会場には着飾った人たちが押し寄せていて、この場所にカメラも向いていて、会場もいかにも華美で。そうした華やかな皮膜を作る、表には出ない人たち。そこがむしろ強烈に過ぎる言葉だったと言えるのかもしれない。

本ドキュメンタリーで撮られた時期の背景などはこの記事(「ディオールを去ったラフ・シモンズ
突然の退任劇の裏にあった多忙すぎる日々」https://logmi.jp/business/articles/118699)が参考になるかと思われる。
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