ヨウ

恋人たちのヨウのレビュー・感想・評価

恋人たち(2015年製作の映画)
4.0
幾つもの気持ちや言葉が、この物語では一方的に通り過ぎていきます。誰もが自分にしか分からない想いを抱えながら、他人に分かってもらいたいと願いながら言葉を放ちますが、経験や境遇が異なる他人では同じ温度で受ける事が出来ない。当たり前の事かもしれませんが、この物語で無慈悲にも描かれる事で改めて気付きます。

橋口監督はこの映画に対して、こんなメッセージを綴っています。『飲み込めない想いを、飲み込みながら生きている人が、この日本にどれだけいるのだろう。今の日本が抱えていること、そして”人間の感情”をちゃんと描きたい』

登場人物たちの行き場の無い感情の吐露に、胸が締め付けられる程、痛くなりました。先の見えない暗闇の中を、苦しみもがきながら、それでも生きていかなければいけないんだと、逆説的にこの映画は投げかけてくれます。

愛する妻を奪われ、苦しみを抱えながら生きている男の上司の台詞がシンプルなのに、何故かこの物語では暖かく、そして優しく響きます。

「腹いっぱい食べて、笑ってたら 人間、何とかなるからさ。」

他人との距離感によって時に人は哀しむ事もありますが、やはり人は人によって救われるのも事実です。

絶望と、わずかに感じる再生の兆し… まさしくこの映画は人間ドラマの良作でした。
ヨウ

ヨウ