TOSHI

グレイテスト・ショーマンのTOSHIのレビュー・感想・評価

グレイテスト・ショーマン(2017年製作の映画)
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たまにミュージカル映画が苦手だという人がいるが、映画は現実からどれだけ浮いているか、飛躍しているかの勝負であり(リアリスティックなドラマであってもだ)、ミュージカル映画とは、現実にある歌い出したくなる気持ちを、本当に歌ってしまう事で現実から飛躍させる、極めて映画的な形態なのだ。
長い間、殆ど廃れていたミュージカル映画だが、近年は主にブロードウェイ・ミュージカルの映画化という形で、また一つのジャンルを形成している。本作もその一つかと思ったが、19世紀のアメリカでショービジネスの原点を築いた、伝説の興行師をモデルにした、オリジナル作品だった。「ラ・ラ・ランドの製作チームが贈る」という宣伝文句だがミスリードで、作詞家チームが同じで、作曲も担当しているだけだ。曲調もラ・ラ・ランドと異なり、非常にパワフルだ。

スーツの仕立て屋であるバーナムの一家は貧しく、バーナムは父について得意先の家を訪ねる毎日だったが、富豪の娘・チャリティに恋をする。やがて父が亡くなり、バーナムは市場で盗みをしながら、ホームレスのような生活になるが、大人になったバーナム(ヒュー・ジャックマン)とチャリティ(ミシェル・ウィリアムズ)は、駆け落ち同然で結婚する。勤めていた会社が倒産のため解雇されたバーナムを迎えるチャリティの、「愛する夫と娘が二人もいて、こんな幸せにはなれない」というセリフにグッときた。
バーナムには夢があり、動物の剥製を揃えた博物館を作るが、客の入りは乏しい。そして娘の言葉をヒントに、巨人、小人、髭の生えた女性など、人目を避けてひっそりと生きていた人達(公式サイト等では、オンリーワンの個性を持つ人々とされているが、平たく言えばフリークスだ)を集めたサーカスショーを開く。一部の民衆や批評家からは批判されるが大盛況で、バーナムは大金持ちとなる。
裕福になったが社会からは認めてもらえないバーナムは、上流階級の客を取り込むため、知り合った劇作家のフィリップ(ザック・エフロン)をバーで飲みながら一団に誘うが、カウンターで歌い踊るこのシーンが、ミュージカルならではスリルが感じられ、個人的には一番好きだった。フィリップが恋に落ちる、ブランコ乗りのアン(センデイヤ)との、ロープを上手く使った、愛の交換場面も白眉だ。
一団はフィリップの計らいで、イギリスのヴィクトリア女王に招待されるが、バーナムは、パーティーで出会った正統派の美人オペラ歌手・ジェニー(レベッカ・ファーガソン)に、アメリカ公演を提案する。
成功を収めて家族のために豪邸を建てるのが意外に早く(ストーリー上は、25年待たせた事になっているが)、サーカス団を蔑にしてオペラ歌手にのめり込む展開に疑問を感じたが、むしろここからの困難が、本作の核心だった。最後には大団円が訪れ、感動させられた。

とてもストレートな作りで、近年のハリウッド製ミュージカル映画を象徴するような、ゴージャスかつパワフルな作品だ。マイノリティのダイバーシティが全面に打ち出されているのが、現代的である。視覚効果の出身であるマイケル・グレイシー監督の、ワンカットへの拘りが感じられる映像の完成度が高く、楽曲も素晴らしかった。
ただ、ストーリー展開がよく言えばテンポが良いのだが、家庭や豪邸を得る事や、メンバー集めや完璧なショーの完成が、苦労もなくできてしまったように見えて、あっさりとし過ぎなのは気になった。ラストも一応、カタルシスはあるが、例えば「SING/シング」等の爆発力と比べると弱い感じだ。フリークス達の人物像への掘り下げが浅い事が、最後の爆発力を弱めてしまっているように思えた。
そして何より、ステージで歌い踊るシーンが中心で、日常の歌い出したくなる気持ちを本当に歌ってしまう、という本来の意味でのミュージカル映画としての満足感はなかった(これは他の、ブロードウェイの映画化作品とも共通する)。
映像、楽曲、パフォーマンスそれぞれの完成度は高いのだが、「ミュージカル映画」としては完成度が高いとは言えないのが残念だ。しかしそんなアラ探しをしたくないと思わせる、ポジティブなパワーに溢れ、至福感を与えてくれる作品である事も確かだろう。セリフにもある、「最高の芸術とは、観る者を幸せにする」と言える作品だ。
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