このレビューはネタバレを含みます
初対面の翌日みたいなぎこちなさが延々と続くみたいな...。
久しぶりにあった友人たちとさんざん楽しく騒いで別れた後に言ったことを思い出して後悔したり、記憶に残る相手のふとした仕草や言葉の意味に気がついて、ぐっと落ち込んでしまうみたいな、そんな自己嫌悪を伴なうような苦い気持ちをたっぷり追体験できる感じ。
主人公はディヴィッド・リプスキィで小説家として本を出版したこともあるが、それで生計をたてるほどに成功したわけでもなかったことでローリング・ストーン誌の記者となる。
リプスキーはバンドを取材するよりも売れっ子小説家のデヴィッド・フォスター・ウォレスに密着取材をして記事にしたいと上司に掛け合い許可をもらう。
ぎこちないながらもリプスキーにうちとけてくるウォレス。しかし、どこかお互いうちとけられてないような距離感も残る。
共に行動していくうちにその距離はどんどん縮まっていくが、お互い理由は異なるものの相手に対しての嫉妬もあったりする。
最初は当人たちも自覚していない無意識下の嫉妬が、些細なことをきっかけに表面化し、一気に二人の関係に緊張感をもたらすことになる。
しかし、それでも取材のために行動を共にせざるを得ないので、修復不可能なのではないかと思われた二人の気まずい空気も緩和され、最終的には関係はいい状態にもどり、お互いまた会おうと連絡先をわたし、分かれる。
その後彼らに付き合いがあったのかどうかわからないが、それから12年後、ウォレスは自殺する。
本が売れたことで有名になり、自分の意図したことと人の受け止め方の間のズレが大きくなることが苦痛となり、さりとて嫌われることを恐れて人がイメージする自分に寄せようとすればそれは本当の自分とは言わない。
自分がしたいからやっているのか、人がイメージする自分に寄せるためにそうしているのかその境目もわからなくなってくる。
夢見ていた成功を手にしてもちっとも不安から逃れることはできず、人を気にするのがいやで一人でいるが、世の中のシステムやサービスがどんどん便利になっていくことで一人でいることが苦にならなくなっていくことに不安を感じるなど、ウォレスの語る不安や心許なさはどことなく身に覚えがある感じがするようなものが多くて見終わった時はほんのりと気持ちが沈んでしまった。
エンディングタイトルが流れ出して、すぐにもう1シーンはさまるのだけれど、それにグッとやられてしまった。
なんというか気まずいこともあったけれどそれを引っくるめて、やっぱりいい出会いだったんだと思えるような。
この瞬間だけで報われたというか。
これきりで会わなかったとしても、その事実だけはきっと変わらないんだろうなというような。
見終わってから、これが実話であることを知った。
なんだ実話だったのかとちょっとがっかりしたけれど、でも、実話なんだからしょうがない。
フィクションだったら最高にカッコよかったのにって、なんでそう感じたのかはわからないけれども。