純

リトル・ボーイ 小さなボクと戦争の純のレビュー・感想・評価

3.9
『ライフ・イズ・ビューティフル』『リトル・ダンサー』に続く戦時下の父子物語!との前評判に素直に惹かれて観に行った作品。予告の雰囲気からも上記の作品から匂うタイプの悲しさ、切なさ、暗さっていうのはあまり感じられなくて、違うテイストの作品なのかな、と思いつつ劇場で干渉すると案の定違って、でもオリジナルの良さのある隠れた良作だったと思う。

周りからからかわれてばかりの小さな男の子ペッパーが、相棒である父が戦地から帰ってくるのを願って、小さな町で様々な困難を乗り越える、小さな世界の大冒険のお話。

全体的にはレトロな雰囲気と健気なペッパーが可愛らしく微笑ましい。彼は純粋に自分のお父さんを愛していて、戦争を、日本を憎んでいる。私たち日本人からしたら複雑な心境になる描写も多かったんだけど(そもそも第二次世界大戦とタイトルをつなげて考えると結構直接的だし)、アメリカの子どもの視点から見た第二次世界大戦と日本、アメリカでの日系人の立場がありのままに描かれていて、でも内省的な要素もしっかりとあって良かった。

幼いペッパーが向き合うのは、戦争といった大きな壁。身長が一向に伸びないこの小さな少年は、隣人のハシモトを周りの人間同様に軽蔑し、憎み、恨むも、父親奪還計画の必要事項を成し遂げるために、仕方なく彼と交流を持つ。一緒に時間を過ごすうちに、始めはハシモトを自国の敵、ジャップとして見ていたペッパーも、彼を敵国の人間ではなく「ハシモト」として見るようになる。ハシモトがリトル・ボーイを「ペッパー」と見てくれたように。お父さんを戦地へ送った戦争は、日本は、もちろん許せない。だけど、ハシモトだって戦争で多くのものを失い、今もなおアメリカで理不尽な扱いを受けて苦しむ被害者なんだということを、ペッパーはゆっくりと理解していく。

ペッパーの周りには、小さいことをバカにする奴らか、小さくたって大丈夫だと慰めてくれる家族しかいなかった。ハシモトだけが「自分と床との距離を見るな。自分と空との距離を見ろ。誰よりも高くなれる」と言ってくれた。自分が小さかったら、目指す場所が遠かったら諦めるのか。その距離感だからできることを探す努力はしないのか。ペッパーを軽蔑していないからこそ、ハシモトは決して答えを教えることはない。いつだってペッパーの背中を押してあげるだけだ。そして、たれ目で頼りない小さな少年は、たくさんの考え方に触れ、学び、心をどんどん成長させてゆく。

アメリカが原爆のもたらした惨劇を子どもの視点から観客に訴えてくれたことは嬉しいと思う。子どもの視点だからこそ、本当に残酷なことだったんだとわかりやすく伝えてくれる。戦争に勝ち負けがあって、アメリカに勝ってほしいと思うことは日本に負けてほしいと思っているのだということ、お父さんに死なないでほしいと思うことは、日本人に死ねと言っているのと同じことだと、当たり前のことをアメリカと日本、両方の立場を配慮して丁寧に描いていた。ハシモトへの痛々しい差別もしっかりと見据えてあって、当時彼らがこんな境遇にあったのかと思うと胸が苦しい。アメリカという国を愛していても、日系人だというただそれだけの理由で排除の対象となってしまう。もちろんアメリカ人の自国愛あってのことだけど、攻撃の対象を明らかに間違っていた。ひとは見えないものに攻撃ができないから、無理やりにでも無意識にでも形のあるものやひとに悪役を押し付けて、憎しみをぶつけ合うんだろうね。愚かなことだしバカバカしいけど、これが私たち人間の歴史だと全人類がもう一度考え直すべきだと思う。大げさかもしれないけど。

社会風刺的な作品であるにもかかわらず、それぞれのキャラクターのまっすぐな思いや芯の強さによって、心温まる作品に仕上がっていると思う。カジュアルだからって見くびってはいけない、痛くも優しい戦争映画だった。
純