道人

追憶の森の道人のネタバレレビュー・内容・結末

追憶の森(2015年製作の映画)
3.0

このレビューはネタバレを含みます

【2016.05.02 劇場観賞(字幕:稲田嵯裕里さん)】

『追憶の森』を観たので、今日はマシュー・マコノ日。

 …というわけで、予告編の焚火に照らされたマシュー・マコノヒーの嗚咽にグッときて映画館へ。

 はるばる日本の青木ヶ原樹海へ片道切符でやって来た異邦人・アーサー。冒頭の「自殺の名所」としての青木ヶ原樹海の淡々とした(といっても腐乱死体やら白骨死体のショットもインサートされるんですが)描写がシンとくる怖さ。とくに枝に引っかかってる無貌の小さな人形(さるぼぼ?)が意味深で怖い。
 アーサーが「死ぬのに理想的な場所」をインターネットで検索して一番に出て来たのが青木ヶ原なわけですが、ここで「死を受け入れる」(例えばホスピスのような…)理想の場所でなく「自死のための」理想の場所が真っ先にヒットするのにもちょっと暗い気持ちになります。

 アーサーの妻・ジョーン役のナオミ・ワッツがとても美しい。心身ともに疲労の色の濃い役なのに、かえってその悲愴さが美しさを際立たせています。彼女とアーサーのすれ違いの場面は辛いのですが、彼女がアーサーを見るときの縋るような目線にはたしかに「幸せだった夫婦生活の残滓」のようなものも
感じられて、彼女の病気に夫婦が再び心を通わせて立ち向かおうとした瞬間唐突に訪れる永久の別れの衝撃が増します。…なんだあのトラック!(怒)
 こうして社会保険番号は知っていても、彼女の好きな色も好きな本も好きな季節も知らないままだったことに愕然としながら、関係も修復途上でアーサーと妻の夫婦生活は幕を閉じます。

 罪悪感と喪失感に捉われて樹海にやって来たアーサーと出会う謎の日本人・タクミに渡辺謙。登場シーンの幽鬼のような泣き声がなんかもう完全に死に損なった人の声で…「ヒイッ」となりました。
 そんなアーサーとタクミが森に囚われ、出口を探して地獄の道行き。「へんじがない、ただのしかばねのようだ」状態の森の先客からガンガン服や無線機などを拝借して進む煉獄の旅路。
 そして物語で最も印象深い、焚火を囲んでのアーサーとタクミの語らいのシーン。ここでのマコノヒーの演技にはとても引き込まれます。今思うと「ハンサムとグレーテル」って、ジョーンからアーサーへの精一杯の惚気だったのかなぁ。

 ラスト、タクミが話していた妻の名「キイロ」と子の名「フユ」が、妻・ジョーンの好きだった色と季節ということが判明して物語の循環の輪が閉じます。
 なんでジョーンの「霊」は日本の中年男性の姿を借りたんだろう…なんて思いますけど、あの「旅立ちの花」を見たらまぁいいかそんなことは、という感じに。
 
 …脇役の俳優さん達もとても良くて。特に医師(ブルース・ノリス)と葬儀屋さん(リチャード・レヴィン)の見せる表情が、「生者と死者」の数多のドラマを見届けて来た者の「優しさと労り」に満ちていて印象に残りました。

 パンフは720円。品の良い作りですが、キャストインタビューがマシュー・マコノヒーのみで残念。監督のインタビューも読みたかったなぁ。
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