TOSHI

グレートウォールのTOSHIのレビュー・感想・評価

グレートウォール(2016年製作の映画)
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大味な作品の予感に、レンタル回しにしようかと思ったが、チャン・イーモウ監督作だからと、思い直して劇場へ行った。
黒色火薬を入手するため中国に来た傭兵ウィリアム(マット・デイモン)の部隊は、馬賊の襲撃を受け多くが命を失い、更に夜中、謎の獣に襲われ、ウィリアムとトバール(ペドロ・パスカル)だけが生き残る。再び馬賊に追われ、万里の長城に辿り着いた二人は、長城を防衛する禁軍に降伏する。万里の長城が築かれた要因が、60年に一度現れる伝説の怪物、饕餮(とうてつ)にあるとする設定と、怪物のエイリアンのような造形に驚いた。
押し寄せた饕餮との戦闘に、正確な弓矢で貢献し、客人扱いされた二人は、25年前に同じ目的で来て以来ずっと城内にいる西洋人・バラード(ウィレム・デフォー)と、饕餮との戦いに乗じて脱出する計画を練る。
しかしウィリアムは、唯一英語が話せる禁軍の将軍であるリン・メイの、大義のために仲間を信じて戦う信任(シンレン)という考えに感化され、戦いに身を投じて行く(リンを演じるジン・ティエンが良く、端正な顔立ちで今後、スターになりそうだ)。
首都抃梁に向かった饕餮をランタン(気球) で追ったリン達を、ウィリアムも追い、女王饕餮を中心とした饕餮の大群との対決が、クライマックスだ(最終決戦が長城でないのは、何故か)。
スター俳優が出演し、戦闘シーンも凄いのだが、どこか全体的に、B級感とイーモウ監督作らしくない違和感が付きまとった。万里の長城などのセットや、美術(色鮮やかな甲冑等)は素晴らしい。人海戦術(凄まじい人数のエキストラ)による兵隊の戦闘シーンも圧倒的だ。しかし饕餮の造形や何万匹も長城に押し寄せる映像は、「スターシップ・トゥルーパーズ」のようで品位が無く、とてもイーモウ監督作とは思えなかった。より気になったのは、人物や心情の描写が、濃厚な人間ドラマを手掛けてきたイーモウ監督としては考えられない程、薄く感じた事だ。ウィリアムが大義に感化されていく心情の描写は今一つ説得力がなく、ウィリアムとリンの関係が“同志以上恋人未満(笑)”で、中途半端なのも物足りなかった。ウィレム・デフォーの他、ワン軍曹役のアンディ・ラウも、スター俳優があまり活かされていない印象を受けた。
本作は「キングコング:髑髏島の巨神」(ジン・ティエンも出演)と同じく、レジェンダリー・ピクチャーズの制作で、同社の怪獣スペクタクル映画の制作システムに、イーモウ監督が権限なく監督として座らされているような感覚があった。
時間と予算に制限がある以上、膨大な公開作から劇場で観る作品はかなり絞り込まないといけないが、私の基準では大味な大作映画は基本的にレンタル鑑賞であり、キングコングはレンタル回しにしたのに、本作を劇場で観たのは、ここまでイーモウ監督らしくない作品である事を読めず、監督の名前に騙された格好だ。しかし期待した芸術性や、細やかな人間ドラマはないが、エンターテインメントとして見所はある作品なので、料金分は楽しめたとしておく。
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