曇天

ワンダーウーマンの曇天のレビュー・感想・評価

ワンダーウーマン(2017年製作の映画)
4.0
どう書くか色々考えましたが批判も手放し大絶賛もしないことにしました…。色んなところで小規模にバズってるけどあんまり話題にならないからモヤモヤしてましたが、自分もそれに乗っかるほど反フェミニストではないので。とりあえずワンダーウーマン絡みの炎上ネタをざっと箇条書き。

・2016年にワンダーウーマンが国連名誉大使に任命されるも抗議によって2ヶ月で解任。国連職員から肌の露出が多過ぎると批判があった。

・テキサス州での女性限定の先行試写会に対して抗議の手紙が市長に届くが、市長は粋な返答をして予定通り上映。女性限定試写は他の州でも実施された。

・レバノンでは主演のガル・ガドットが敵対関係のイスラエル国民であることを理由に上映禁止。ガル・ガドットは2014年のイスラエルのガザ侵攻の際にフェイスブックでイスラエル側を支持する投稿をした。


はい一番下はしょうがないです! 自国がテロ仕掛けられてるんだからそれくらい言うでしょう! ガル・ガドットは悪くない、悪いのは戦争してるハマスとイスラエルです。

気になるのは最初。読んでいくとつまりは露出の多いワンダーウーマンは挑発的で、男の望む「物としての女性」の象徴であるから国連大使にふさわしくないと。同じ理由で国連職員以外にもワンダーウーマンがフェミニズムの象徴にはふさわしくないと思ってる人が少なからずいるようで。でも露出度の自由は女性性の解放でもあるはず。露出が少ない服装が女性の権利の強さを示すわけではないし。何よりワンダーウーマンの服装を変えてしまってはワンダーウーマンではなくなってしまう。アマゾネスの力強さを表すための民族衣装のようなコスチューム(星条旗模様なのは誕生が戦時中だから)、そしてこれまでの女性人気を、もちろん男性人気をも下支えしたであろうあのコスチュームは彼女のアイデンティティーで、良くも悪くもワンダーウーマンの歴史そのもの。簡単に書き換えたらいけないと思う。
映画内でそれ関連のネタが集約されてるのは、やはりロンドンに来てからの彼女のズケズケとした態度にだな。あれは1918年が今よりも男社会だったことで分かりづらくなってるんだけど、女性性が抑圧されている様、ともとれる。「その格好じゃまずい」「なんで?」→「ここに来ちゃいけない」「どうして?」のやりとりで笑ってしまうが、ダイアナは今までと少しも変わらないのに状況に合わせて変化を要求されてる。女性が受けがちなセクハラを遠回しに描いていたと思う。と同時にワンダーウーマンのアイデンティティーであるあの衣装のままでいさせようとするところに制作側の彼女への愛も感じられるチャーミングなシーンである。

まあスーパーマンやバットマンだって昔はピッチピチのタイツ着て男性性むき出しだった。そこへ入ってきたワンダーウーマンの衣装は違和感なかったわけで。そのヒーローコミックも男性社会で、そこで男と同じように活躍する女性としてワンダーウーマンは輝いてて、それは当然フェミニズムの象徴なわけ。

とにかくジェンダー含め現実の差別の問題は複雑。少なくとも、いい兆候だと言えるのは「差別に抵抗してるからではなくその主人公にニュートラルに感動できる作品」が広く見られることだと思っているので、『ワンダーウーマン』は成功なんじゃないでしょうか。ワンダーウーマンが女性の解放を主張していないからこそ良い作品だと思うのです。『モアナ』然り『ムーンライト』然り。そういう作品が誰も違和感を抱かず観られた時には解放運動も必要なくなるでしょうからね。


追記。見返したら大分批判寄りの文面になってて反省。劇場では泣くほど好きだったんだけどな。初陣は本当に戦場に女神が現れたみたいになってて神々しかったし、それでいてちゃんとダイアナの成長物語になってた。時代設定も好みで第一次大戦だから「どの戦争?」の質問に何て答えるのかと思ったら「戦争を終わらせるための戦争」のセリフで大感動。あからさまにドイツ軍を悪役にしないところもファンタジー寄りで良い。後々読んだダイアナ・トレバーの逸話も入れて欲しかったけどコンパクトにするにはこれでいい。入れると衣装がホントに星条旗になるしな。
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