JunichiOoya

神に誓ってのJunichiOoyaのレビュー・感想・評価

神に誓って(2007年製作の映画)
2.0
イスラーム映画祭、私は初参加。
で、五年前の評判作再映ということで、このパキスタン映画を見物した。
「911以降のイスラーム社会が抱える葛藤をパワフル睨み描いた社会派ドラマ」だそうだが、随分と落胆させていただいた。

原理主義に傾倒していく弟とシカゴの音楽学校のインターナショナルな環境(多分にステレオタイプで薄い描き方だが)に急速に馴染む兄。イギリス人母とパキスタン父(自身のムスリムとしての立ち位置から内縁関係を選択し、でも実質的には棄教状態)の間に生まれた主人公兄弟の従姉妹女性。
弟を教化する原理主義者とリベラル指導者(実に軽薄なおっさん)とCIA(こちらも十分過ぎるほどヘタレとして描かれる)、各自の立場表明。
そして兄弟+従姉妹のそれぞれの両親。

どれもこれも図式的でひたすら陳腐。
911を契機に世間に翻弄されジタバタと足掻く彼らは、結局はお約束の「希望」に辿り着かざるを得ない。映画が始まってすぐその結末は予想されてしまう。

この映画、パキスタン国内では大ヒットしたのだそうだ。確かに三方一両損というか予定調和の擬似幸福というか、「娯楽映画」としての要素・役割は一定程度果たし得ているのだろう。でも、それだけ。

登場人物たちはそれぞれに能天気に前向きだ。苦労や苦悩(物理的な、じゃあないよ)とは徹底して無縁。
せっかく、ウルゥドゥ、英、パンジャビー、アラビア、パシュートと多言語会話を織り交ぜて物語るのに(アメリカ映画なら十把一絡げにアメリカ語で済ましてしまって観客を混乱させるところだが、その辺りは誠実)何故みんなあんなにステレオタイプなんだろう?

兄がシカゴの音楽学校で歌い始めると、それまでパキスタンのことなんか一切関知しなかった同級生(見事に多民族集合)が合奏を始める嘘っぽさ。
弟は原理主義者のオルグに鼻から一切の葛藤なくのめり込む。(だから後半、いとも容易く再転向するのだが)
そして従姉妹女性に至っては、ラストでイスラーム女性への教育に目覚め、「学校」を作ってしまう。イスラームの地では自らは文字のの読み書きすら出来ず、自ずと彼女の施す「教育」は「阿片商売」で中国を食い物にしたことを総括しようとしないイギリス仕込みであることに完璧に忘れたフリをして。
CIAもイスラーム原理主義者も、あんなおめでたいバカはいませんよ。「敵」を甘く見すぎるのは、その敵をまるでわかってない証拠。
終盤のリベラル派の「正論」に至っては、今更相手を論破する手段として使用すること自体が幼な過ぎる。

911を総括できないのは米国だけじゃなくてイスラーム社会(いやパキスタンだけなのかもしれないし、そうだとしたらごめんなさい)も同じで、暗澹たる気分にさせられた。

そんなわけで、「パキ野郎」のこと考えるなら、改めて新作「カセットテープダイアリーズ』は素敵な主張を持った映画だったなあ、と感慨深いわい。
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