小波norisuke

僕と世界の方程式の小波norisukeのレビュー・感想・評価

僕と世界の方程式(2014年製作の映画)
4.5
見逃さないでよかった~というのが一番の感想。

父親を事故で喪い、心を閉ざしてしまった自閉症の少年ネイサンが、得意な数学を通して、様々な出会いを経験し、新しい世界へと心を開いていく。と言ってしまえば、凡庸なストーリーに聞こえるかもしれないが、主人公のネイサンだけでなく、周囲の人間の葛藤も丁寧に描いていて、とても心に沁みた。「シングストリート」のように、青春ストーリーでありながら、時に閉塞感に押し潰されそうに感じてしまう大人をも励ましてくれる映画だ。

「国際数学オリンピック」の英国代表選抜チームに選ばれたネイサンは、同じチームの少女から、「これまで『変わってる』って言われてきたでしょうけど、ここは変人ばかりだから、あなたは痛々しいほど普通よ」という言葉を浴びせられる。「痛々しいほど普通」という言葉が面白い。「普通」も「変人」も、角度を変えればいかようにも定義できるのだから、どうでもいいじゃんと思えて嬉しかった。

ネイサンは、選抜チームの合宿中に、音楽の秩序正しき美しさに気づき、突然に世界が広がったように感じる。その開放感が伝わってきて、清々しかった。

この映画にとても惹かれてしまうのは、自尊感情をテーマにしていること。数学だけが心の拠り所だったネイサンが、初恋を通して変わっていく。ネイサンに心を閉ざされて孤独を感じていた母親が、ネイサンの初恋を応援することを通じてネイサンと心を通わす。進行性の病気を抱え、人生に怯えていた数学教師がネイサンや母親に必要とされることに支えられる。それぞれが自分の価値を見出だしてくれる存在と出会い、そのかけがえのない存在を慈しむ姿に胸を打たれた。

私にとっては「縞模様のパジャマの少年」と「ヒューゴの不思議な発明」のエイサくん。お顔は変わらないけど、大きくなったなぁ。母親を演じたサリー・ホーキンスや、「おみおくりの作法」とは全く異なるキャラクターを演じたエディ・マーサンもとてもよかった。
小波norisuke

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