青いむーみん

ヒメアノ〜ルの青いむーみんのネタバレレビュー・内容・結末

ヒメアノ〜ル(2016年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

 傑作かもしれない。原作のコメディ要素と狂気を非常に上手く再現できている。序盤は凡人岡田と尻軽系かわいい女子阿部の出会いを滑稽だが前向きな先輩安藤さんの無意識なキューピティズムで笑わせるが、一滴だけ森田という不安要素を落としている。それは途中まで9:1ぐらいの比率でにこやかに進む。が、岡田と阿部の関係が深くなったところで himeanol とタイトル登場。ここから狂気が凌駕していく。しかも上映30分以上過ぎたあと唐突に現れるので驚き、感心させられる。
 狂気とは書いたが、あくまで我々の中ではの話だ。森田にとっては普通であり平常作業だ。殺人後の自慰行為は性欲と殺人への欲求の混同を感じられる。原作ヒメアノ~ルのエクストリームであり非常に意義のある俯瞰する異常者という視点が欠けているのが非常に残念だ。自分は殺人で欲求を満たす異常者であると自分で気づいた時の衝撃が描かれていない。正直、その視点はこの作品を究極のレベルに引き上げる部分だと思っている。こんな視点他にはないから。加害者に同情するという問題作になってしまうかもしれないが是非とも描いて欲しかった。今作でもラストで加害者は僅かな友情でこちらの世界に戻ってくるが、上記した視点と比べるとここでの同情は甘いしぬるい。何か編集時に問題があったのか、読み違えているのか、どこかからNGが入ったのか分からないが、描いていれば世界に衝撃を与えられたかもしれない。
 ここからは良かった点をいくつか挙げていく。
 岡田と阿部のセックスのリズムで同級生和草の婚約者を鈍器で殴り交互にリズミカルに見せていくのはこの映画の見所だ。こういうアイデアが映画のクオリティを高くする。
 不法侵入した家の主が帰宅して驚愕し、逃げようとしたところを背中から襲うシーンもナイフがなかなか刺さらないなど細部のリアリティが素晴らしい。
 クライマックスで布を被せて殴られて血が噴出しているのもリアルだったし、最後森田の脚が取れているのもいいアイデアだ。
 森田と安藤さんの対比も重要だ。全て諦めた森田とダメと分かっていながらも前向きな安藤さん。選ぶ言葉が全て真逆で興味深い。安藤さんのキャラを浮いていると思うのも当然で、彼だけ古谷実作品濃度の高いキャラの立ち位置であるので古谷実作品を知らない人には違和感を感じさせるだろう。あの髪型を実際にやったのもいいし、周りが普通の演技をしている中あの異質な演技を求められ、それに答えたムロツヨシはナイスキャスティングだろう。
 最初から両手で胸を揉みに行く岡田の童貞臭も良かった。凡人で童貞で器が小さい岡田に濱田岳は適役。
 割りと酷い女の役に抜擢されて佐津川愛美も本当によく頑張ったと思う。見せる見せないなんかよりもああいうシチュエーションの演技を出来ていたところが良かった。
 森田はとにかく普通にと要求されたとインタビューで語っている。それが奏効していて過剰な動き、表情、台詞がなく、正に根っからの異常者になれている。正直この作品を見てもあまりにも普通なので演技を評価できないのだ。しかし、今作はそれが求められているので全く文句なしだ。
 一つだけ突っ込みどころ。最後、岡田と阿部が別々に帰ってくるのは非常に不自然だ。あれだけ自分たちが狙われていると分かっていながら、言及していながら、呑気に単独行動出来るというのはおかしい。原作でどうだったかは覚えてないが、原作通りならここを修正して欲しかった。

 原作に比べると不満はある。が、原作のない、こういう映画だと思えば十分良く出来ていて感心するところもあって、いい衝撃だった。特にタイトル表示シーンは最高。