ryosuke

高麗葬のryosukeのレビュー・感想・評価

高麗葬(1963年製作の映画)
3.7
途中フィルムの欠落があり、字幕が途切れ途切れに表示される他は音声のみで上映されていたのだが、大入りのシネマヴェーラの観客皆で黒いスクリーンを眺めているのは異様な光景だった。音によって想像が掻き立てられ、画面が見たいとムズムズしてくるのはある意味貴重な経験だったかもしれない。
倫理が無効化された山奥が舞台で姥捨が主要な題材となるとやはり「楢山節考」を思わせるが、十人兄弟はコインの裏表で父親の生死を決め、祖父母と孫が芋を奪い合い、兄弟達はライバルの井戸に死体を放り込み、と本作では「楢山〜」以上の地獄が展開される。やっぱりこっちでも人骨の山はあるんだな。
子供の生贄の儀式なども喉を突く描写がエグい!ムーダンの怪しくハイテンションな儀式を見ていると「コクソン」を思い出した。
散々地獄を見せつけられた後に、「母親として楽しいことの方が多かった」なんて切ないなあ。延々引き延ばされる別れのシーンの中で本音が吹き出す。「70まで生きても母に抱かれていたのが昨日のようだ。長生きしたい...」なんて痛切過ぎる。
そこに愛があろうが結局男に従属することになる女の描写は「下女」同様だな。
禿鷹との切り返しも衝撃的。生前に襲わせてしまう辺りが苛烈なのだが、母が即座に骨肉に変わっているのが異様な映画的嘘という感じで印象的だった。
ラストは熱した鎌に触れて燃え上がる男に驚かされる唐突なスプラッタで締める。処刑の木とムーダンが倒れ一瞬のカタルシスはあるが、支配体制が崩れた後になお残った剥き出しの自然も決して優しくはないだろう。
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