ハッピーアイスクリーム

たかが世界の終わりのハッピーアイスクリームのネタバレレビュー・内容・結末

たかが世界の終わり(2016年製作の映画)
4.4

このレビューはネタバレを含みます

自分に死期が迫っていることを伝えるために12年ぶりに帰郷した青年と家族との葛藤を描いたドラマ。
愛があったからこそ憎しみ合う家族の物語。

カンヌでグランプリに輝いたフランス映画。人間描写がとても面白かったです。

序盤は主人公ルイの視点から観ていたから、この家族の身勝手さや自己中心的な振る舞いにイライラして不快だったけど、物語が進み、次第に彼らの心情が見えてくるとその感情は一変した。

自分の野心のために家を出たルイ。
久しぶりに家族が揃う日を良い一日にしようと全力で振る舞う母。
街で成功したカッコイイ兄の帰りを心待ちにしていた妹。
ルイとは初めて会う兄の嫁。
そして、弟が去り、長男として家を仕切らざるおえなかった兄アントワーヌ。

兄の視点から観ると、自分に家を任せて勝手に家を出てノコノコと帰ってきた弟と、それをチヤホヤする家族が面白いはずがない。
さらに初めて会うのに、妙に通じあってる弟と自分の嫁。
地元の工場で働いている自分に対して、街で作家として成功を収めた弟への嫉妬。

それらが明るみになるにつれて、次第に“もうすぐ死ぬ可哀想な弟”から“家のために自らを犠牲にした兄”に感情を動かされた。
途中の兄弟だけのドライブで、回りくどいどうでもいい会話から始めようとする弟にイラついて怒り狂うのもちょっと分かる気がする。
この弟ルイという人間は、家族に対しての興味が薄い。

そして決定打となるルイの“兄さんは街が好きだろ?”という無神経な言葉。
誰のせいでこの場所に留まってると思ってるんだと僕でもブチギレます。

ここから結末への展開は凄まじかった。
夕陽で紅く染め上げられた部屋で強引にルイを追い出そうとするアントワーヌ。爆発する各々の感情。
殴りかかろうとするアントワーヌの拳の無数の傷で彼がどれだけ苦しんだかよく分かる。観ていて辛かった。

“家は救いの港じゃない”

自身の死期を先に伝えていれば、こんな結末にはならなかったのだろうか。
そしてルイが死んだ後、彼らはどんな想いを感じるのだろうか。
家族って、大切だからめんどくさい。

監督はカンヌの受賞スピーチをこんな言葉で締め括ったそうです。
『無関心な知恵より 情熱的な狂気』