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ウソはホントの恋のはじまりのnetfilmsのレビュー・感想・評価

3.8
 売れた映画の小説化の時にだけ、出版社に呼ばれるうだつの上がらない小説家のサム(ジャスティン・ロング)は、自分自身の人生に心底ウンザリしていた。たまたま当たったノベライズに気を良くしたエージェントのアラン(ヴィンス・ヴォーン)はこの路線で行くと決めたようだが、純文学志望の彼はまったく気乗りしていない。MAC BOOK Proにタイピングされる文字はトライ&エラーの繰り返しで、骨のある小説が書きたいと思うものの、現実の彼の人生は平凡過ぎて何か書ける気配などない。ニューヨークに住む心底冴えない男の楽しみはカフェでコーヒーを飲むことで、このカフェの店頭には秘かに心を寄せているバーディー(エヴァン・レイチェル・ウッド)がいる。彼女に勇気を出して話しかけたいと思うものの、中二病をこじらせたサムは彼女と会話すら出来ずに悶々とした日々を過ごすばかりだ。『ノッティングヒルの恋人』同様に風変わりなルームメイトのエリオット(キーア・オドネル)の行動はどこまでも破天荒で、朝からマリファナをパカパカ燻らしたかと思えば、奥手の主人公にSNSで彼女を探せと進言するのだ。この提案を平然と受け入れてしまう姿にこそ、中二病的なサムのメンヘラ気質はある。

 サムはその日からバーディーのFACEBOOKで彼女の好みを探り、その通りの人間になろうとする。今時ネット検索のアルゴリズムでも、もう少しは気の利いた提案をしてくれるのだろうが、バーディの性格や育ち、好みを知らない彼はSNSのバーディの文面をなぞり、理論武装していく。信じられないことにこの時点ではサムはバーディと正式に知り合ってさえいないのだ。恋に奥手なこじらせ系男子は、恋愛の手順すらわからず途方に暮れる。ギター・スクールに料理教室、柔道の稽古よりも先にまずは「彼氏はいるの?」くらい尋ねるべきところだが、人間がAIに併せようとするのが喜劇であり、悲劇だ。マニュアル人間にすらなれていない男の病巣は常に誰かと比べることで一喜一憂するばかりで、自己評価があまりにも低いのだが、そんなサムの姿にバーディは笑顔で合わせてくれるのだ。いや、どちらが合わせてくれているのかは一目瞭然だろう。アクティブでアートにも造詣の深い読者家のバーディの趣味にサムは精一杯自分を合わせようとする。恋愛は自分の一番好きな趣味を愛する人と共有することに醍醐味があると感じるはずのないサムは来る日も来る日もひたすらバーディの決めたデート・プランに従い、良い顔を繰り返す。だがその反動は遠からず、突然やって来るのだ。才能だけは人一倍の男は然しながら、自身を客観視出来ずにいる。エージェントの辛辣な批評にサムが気付く場面は痛快この上ない。恋愛は互いのツボやレイヤーの違いがわかれば、可笑しさや愛おしさはうっかり顔を出すのだ。
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