鰯

ディーパンの闘いの鰯のレビュー・感想・評価

ディーパンの闘い(2015年製作の映画)
4.0
発砲禁止区域

スリランカの内戦を逃れるため、家族を装ってフランスへと渡ってきた1組の男女と少女。集合団地で管理人の仕事を得た男・ディーパンは、慣れない生活環境で何とか生き抜こうとするが、新たな暴力の渦に巻き込まれていく。

スリランカの難民は、最近日本でも訴訟になっていますね。今作は、難民認定を含めた政治的な問題も描きつつ、中身はしっかりエンタメ作品として仕上がっています。これを何のために観るかといわれれば、ディーパンに見惚れるため、といっても過言ではありません。
入国のためだけに装った家族に、不躾な態度を取っていた彼が、徐々に「家族」のために闘うヒーローに変わっていく様には拍手喝采せずにはいられません。こういったヒーロー像はどこかで見たことあるような気もするけど、どこでも観たことない空気感に仕上がっている。まず、アントニーターサン・ジェスターサンの顔が良い。初めは全然かっこよくなかったはずが、終盤は現れただけで「来た来た!」と思わせる表情の説得力。白線を引くときに、髪を少し固めて颯爽と現れるときがあまりに渋くて忘れられません。一方で、フランス語がわからず困惑しているとき、ユーモアがなく何だか気まずくなっているとき、「奥さん」のシャワー上がりを覗こうとするシーンなど、少し間の抜けたような演技も良かったです。それと必見なのは、元上官にボコボコにされるシーン。あれって現実なのか、夢だったのか、どっちなんでしょう。最終的にベッドに倒れ込んでいて、「ただの夢?」と勘ぐってしまいました。そういった夢と現実の境目が若干曖昧なシーンがいくつかあるのも、特徴なのかな~とか思いました(ラストも少しそんな感じ)。

闘っているのはディーパンだけでなく、奥さんも。認知症の進んだ老人の家事手伝いとなるわけですが、そこはギャングのたまり場になっている。ギャングに凄まれても、相手の目をまっすぐ見て話す強さが素晴らしかった。そんな中、老人は信用しているようで通じているのか分からなくても、柔和な表情で何度も話しかけていたのが印象的。

こんな感じで2人が闘っている一方で、少女の印象がかなり薄い。彼女なりの闘いはちらっと描かれるけれど、終盤はほぼ消えていて残念でした。
カンヌのパルムドールなんて言われると、何となく手が出しにくい。お洒落すぎてダメな気がする。でもいざ見てみると、とってもいいものが得られました。
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