鰯

存在のない子供たちの鰯のレビュー・感想・評価

存在のない子供たち(2018年製作の映画)
4.0
確かにそこにある命

「多分12歳くらい」自分の出生日が明らかでないゼインは、自らを産んだことを理由に両親を訴える。学校にも通えず最も親しかった妹さえ離れていく。ゼインはなぜ法廷に立ち、なぜ両親を訴えたのか。

あえて言うと面白かったです。重い雰囲気を感じて、なかなか映画館で見る意欲が湧かなかったのですが、本当に見ることができた良かったです。「演者(と本人の合いの子?)」の説得力、恐ろしい現実がいつ牙を向くかわからないサスペンス、緊張感を維持させる音楽。何もかも圧倒的でした。

弁護士役のラバキー監督以外は、ほとんどが演技未経験の市井の人というキャステングは、フィクションでは到達できない領域にこの映画を持って行っているように思いました。親子の衝突やゼインが怒ってある場所へと向かうシーン、刑務所で1人1人が見せる多様な表情など、そのどれもが現実としか思えない怖さがある。そしてゼインに押し寄せる厳しい現実が積み重なるたびに、彼が爆発して暴力的になるのではないかと言う不安がスクリーンをいっぱいにしていく。役者では真似しようのない現実を見つめる彼の目にはとてつもなく惹きつけられました。ゼインと深く結びつくこととなるヨナス(2歳)とのやりとりも素晴らしい。2歳とは思えない抑制の効いた芝居?にやられました。
貧困の連鎖、自宅出生、不法移民、強制結婚、ブローカーなど厳しい問題を詰め込めたのは綿密な取材とキャストの1人1人が本当にそれらの体験を経てきたからだと思います。普通の映画なら詰め込みすぎに思えるけれど、この映画ではあまりに身近にふとした瞬間にそう行った問題に出会ってしまうから。
厳しい現実の中にも笑いがあるのがいいところ。市場で出会う物売りのメイスーンとのやり取りにはクスッとさせられるところも。

時々差し込まれる遠景が、この問題がある家庭にとどまる話でなく、同じような家庭がごまんとこの社会に存在することを想起させ、本当に辛くなりました。また予習はほとんどせず、どの国の映画かさえ理解していなかったのが幸いし、普遍的に物語を見ることができました。

見ながら思い出したのは、「ソニータ」、「ギャングース」、「ディーパンの闘い」、「ローサは密告された」、「シティオブゴッド」あたりでしょうか。こういった作品がお好きな方はぜひ
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