鰯

A GHOST STORY ア・ゴースト・ストーリーの鰯のレビュー・感想・評価

5.0
時間を超える

ポスタービジュアルから受ける印象と鑑賞後に持ち帰ったものの軽重の差があまりに大きい映画でした。まさかシーツを被った彼にこんなに心を動かされるとは。

時間が大きなテーマになっていて、死して時間と言う軸に縛られなくなった主人公と変化していく人々、土地を、淡々とでも優しく映し続ける。主人公Cと妻のMの背景が深く語られることはない。だけど、2人が深く愛し合っていたことはよくわかる。
90分と言うコンパクトな映画ながら、ワンシーンワンカットに近い撮影でじっくりじっくり登場人物の感情の変化を拾い上げようという意思を感じました。大きなアクションがあるわけでもなく、セリフがあるわけでもないのに、シーンが始まった時と終わったときの変化がわかる、伝わるのがすごい。妻Mが地べたに座ってやけ食い?をするシーンとある曲を聞くシーンは本当に好きです。
「2人の愛が永遠に」みたいなところへまっすぐ進むかと思いきや、想像を遥かに越えたところまで連れて行ったくれた監督には感謝です。新しい世界が見えた!ような気分になれました。

あとはあの不思議なフレーム。真四角に近くて、角が丸みを帯びている。手の届かないほど離れた世界を描いているような、それでいて手元で写真でも見ているかのような変な感覚。うう、表現が難しい。
映画全体はあっという間だったような、他方で無限の時間だったような本当に言い表しがたい感覚。そもそもこれだけ映像でビシビシ伝えてくれた映画を言語で表現するのが不可能な気すらしてきました。
鰯