3104

サウルの息子の3104のレビュー・感想・評価

サウルの息子(2015年製作の映画)
3.9
映画は疑似体験である。そして映画を観るという行為自体もまた体験である。

予告編が終わり本編開始前、劇場の緞帳が少し閉じられる。この作品は「スタンダードサイズ」(横4:縦3の比率)での上映である。加えて終始主人公サウルとその視界だけを映す手持ち風のカメラワーク。焦点深度がかなり浅く、画面の奥で繰り広げられている~収容所内の労働風景や死体の処理などの~あれやこれやの様子は詳しく映されない。
これにより「映画を観るという行為の体験」を通常よりことさら強く感じさせ、「映画という疑似体験」をも心に強く焼きつける事にも成功している。

しかし画面サイズやカメラワークはそれが主たる狙いでは決してないはず。
ホロコーストの“真実”は、生き残った者の伝聞や教科書などではどこまでいっても理解できるものではない。故に安易な解釈や妥協を避けた「見えないことは語れない」とでも言わんばかりの、作り手側の強い意志をそこに見ることができよう。

また歴史的背景(ホロコースト、ゾンダーコマンド、ラビ等々・・用語や時代背景などの予備知識は予習してくとわかりやすい、というより知らないとわかりづらい)は遠い背景に設置し、手前に主人公サウルの2日間とその行動を描くことにより、ミニマルな視点(サウル)からマキシマルな問題提起(ホロコースト)に成功しているといえるのではなかろうか。

アカデミー外国語映画賞およびカンヌ映画祭審査員特別賞受賞。
3104

3104