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さらば冬のかもめのgenarowlandsのレビュー・感想・評価

さらば冬のかもめ(1973年製作の映画)
4.1
道草ばかりでなかなか目的地につかないロードムービー。ベトナム反戦を声高にできなかった時代に、アメリカンニューシネマの型に隠れた反戦映画でした。ハル・アシュビー監督すごい手腕で見事なフェイクです。木下恵介監督の「陸軍」に通じます。日本の仏教のお題目が作中にたびたび出てくるので、アシュビー監督は「陸軍」、意識して作った「海軍」だと思いました。

海軍で窃盗未遂で8年の禁固刑となった囚人(ランディ・クエイド)を刑務所に護送する任務についた長官お気に入りの二人(ジャック・ニコルソンとオーディス・ヤング)。一週間の期限を目一杯使って遊びながら向かう。

囚人は身体は大きいがまだ未成年。たくさんの初体験を経験させてもらう。三人の間に友情が芽生えますが…

ハル・アシュビーは半分コミカル、半分シリアスで、社会的弱者へのまなざしが優しく、大好きな監督。

このロードムービーで、描いていたことは反戦で、兵士(ジャック・ニコルソン)と、刑務所に入ることで結果的に戦争を免れた若者とを対比しています。どちらにしても自由がない若者たち。

原題「The last details」は、いずれにしても戦争か刑務所か、逃亡すれば死刑、逃れられない運命の筋書きがあることを表しています。

ハル・アシュビーのすごいところは、当時まだ反戦を表立って表すことができなかったので、コミカルに逃亡はいけない、でも護送中にたくさん初体験して人生の喜びを知ってしまった若者の葛藤として描いており、反戦、ベトナムはそのどこにも表していない。ニコルソンがアル中に近い演技でキレやすいとか、通信兵になれば前線にいかなくてもすむとか、書類の不備で正式な命令ではないこと等、さりげなく、反戦の意思を表していました。

また、若者がノーと言えず、すべてを受け入れてしまい、意思を表さない弱い性格として人物設定され、これは声をあげよ、と捉えられます。

友情を描くことで、前途ある若者の命の尊さが間接的に描かれています。

アメリカで最初にベトナム反戦映画を世に出したのはアシュビーの「帰郷」(1978年)とチミノの「ディアハンター」(1978年)。本作はその5年前の作品。その時代にこれを観た人々は、静かに反戦の意思を感じとっていたのかもしれません。

テキトーな役のニコルソンと違い、オーディス・ヤングの役回りがちょっと説教くさくて真面目ですが、その後、聖職に就いています。このキャスティングも背景を知っていたからなのかも。
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