さく

この世界の片隅にのさくのレビュー・感想・評価

この世界の片隅に(2016年製作の映画)
5.0
正直、予告編観たときには決してうまいとは言えない能年ちゃんの声優っぷりと、所謂「日本人の作る戦争もの」に対する嫌悪感とまで行かないまでも「なんかちょっとね…」感から、「観には行くけど地雷臭がする!」と思っておりました、すみません。全面的に間違っておりました。私と同じような理由で観るのを避けてしまっている人は観るべきです。能年ちゃんがそもそも嫌いでなければ必ず心に残る名作となります。


以下多少ネタバレも含みます。


能年ちゃん(あえて能年ちゃんと呼び続ける)の演技に関しては、予告編で観た印象通り、決して「うまい!」と言えたもんではないと思うけれど、いやむしろ「いい!」わけです。すずのキャラを能年ちゃんに寄せてきたのか、能年ちゃんのキャラがすずに似ていたのかはわかりませんが、確実に能年玲奈という人の良さが、すずというキャラと片渕須直監督によって120%活かされている感じです。『あまちゃん』すら見ていないニワカのくせに言いますが。心の荒んだおっさんも心がほっこりせずには居られない。

そして、否が応でも、すずの人生とオーバラップしてしまう今の能年ちゃんの置かれた立場。腕を失って大好きだった絵が描けなくなったすずと、活躍の場、あまつさえ本名である能年玲奈という名前さえもを奪われてしまった能年ちゃんの思い、「私の人生って何なんだろう?」という思いが重なる。

広瀬すずや小松菜奈といった若手女優が次々と銀幕の中で輝く中、ようやく回ってきた、言わば極めて地味な仕事。広瀬すずのような圧倒的な演技力や小松菜奈のようなスクリーンに映える透き通るような美しさとはまた違った形で能年玲奈という才能を遺憾なく発揮してくれました。公開館数の少なさもあるだろうけれど、朝から晩まで立ち見が出るような大盛況で、みんな能年ちゃんの活躍を期待しているのだよ! 何があったかよくわからんけれど、テレビなんてもうどうでもいいから映画で活躍しましょう!

日本人の撮る戦争ものであるのに、過度に感傷的にならず、説教臭くもなく、変なイデオロギーにまみれた感じでもなく、淡々と日常が描かれていたことにも好感が持てました。
さく

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