#この世界の片隅に
タンポポの綿毛は、風に飛ばされて散る。
見知らぬ大地に落ちたのち、そこに根付き、やがて花を咲かせる。
白いタンポポが咲く土地に、たった一人で舞い落ちた黄色いタンポポ。
黄色いタンポポこそ、すず本人のことであろう。
現代では、「戦争」というものは、特定の人の所有物のように捉えられている。
その所有者は、例えば知識人と呼ばれる人だったり、プロ市民と呼ばれる人だったり、戦争で大切な様々を失った大先輩だったり、兵器と凶器を売りものにする狂気たちであったり…、する。
この映画が多くの人にこれほどまでに沁みている理由として、主人公が、上記に挙げた種類の人々とはまるで無縁な、「うちは、ぼーっとしちょるけん」女の子=すず、だということが大きいだろう。
映画は、冒頭から伏線が敷かれ、エンドロールの最後の最後まで、しっかりと回収され続ける。
ひとつとして、無駄なシーンが存在しない。
何度も映画館に足を運ぶリピーターが増え続けているのも当然である。そして自分もそのひとりだ。
かなとこ雲は大雨を降らせ、きのこ雲はブラックレインを降らせる。
「綿毛」という「偶然を装った必然」の姿を借りて、タンポポは風に乗って運ばれ、新たな土地でドラマを生み出す。
今さらではあるが。
生命というものは、なんと健気で儚くて愛おしいものなのだろうか。