さむ

この世界の片隅にのさむのレビュー・感想・評価

この世界の片隅に(2016年製作の映画)
5.0
#この世界の片隅に
タンポポの綿毛は、風に飛ばされて散る。
見知らぬ大地に落ちたのち、そこに根付き、やがて花を咲かせる。

白いタンポポが咲く土地に、たった一人で舞い落ちた黄色いタンポポ。
黄色いタンポポこそ、すず本人のことであろう。

現代では、「戦争」というものは、特定の人の所有物のように捉えられている。
その所有者は、例えば知識人と呼ばれる人だったり、プロ市民と呼ばれる人だったり、戦争で大切な様々を失った大先輩だったり、兵器と凶器を売りものにする狂気たちであったり…、する。

この映画が多くの人にこれほどまでに沁みている理由として、主人公が、上記に挙げた種類の人々とはまるで無縁な、「うちは、ぼーっとしちょるけん」女の子=すず、だということが大きいだろう。

映画は、冒頭から伏線が敷かれ、エンドロールの最後の最後まで、しっかりと回収され続ける。
ひとつとして、無駄なシーンが存在しない。
何度も映画館に足を運ぶリピーターが増え続けているのも当然である。そして自分もそのひとりだ。

かなとこ雲は大雨を降らせ、きのこ雲はブラックレインを降らせる。

「綿毛」という「偶然を装った必然」の姿を借りて、タンポポは風に乗って運ばれ、新たな土地でドラマを生み出す。


今さらではあるが。
生命というものは、なんと健気で儚くて愛おしいものなのだろうか。
さむ

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